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物語には「傷つけられたい」ので『機動戦士ガンダム 水星の魔女』が不穏で楽しい

毎週、予想外の展開に目が離せません。

Twitterで話題になりすぎて概ね何が起こったかわかってしまうのに、それでも面白い『水星の魔女』がすごいです。

■学園ものからはじまる不穏

主人公は女の子ですが、「機動戦士ガンダム」です。
現在絶賛放送中。

A.S.アド・ステラ122――
数多の企業が宇宙へ進出し、巨大な経済圏を構築する時代。

モビルスーツ産業最大手「ベネリットグループ」が運営する
「アスティカシア高等専門学園」に、
辺境の地・水星から一人の少女が編入してきた。

名は、スレッタ・マーキュリー。
無垢なる胸に鮮紅の光を灯し、少女は一歩ずつ、新たな世界を歩んでいく。

『機動戦士ガンダム 水星の魔女』公式ホームページより

決闘で勝利すると花嫁とエンゲージできる、という少女革命ウテナを彷彿とさせる第1話で一気に引き込まれました。

辺境の地・水星から来た転校生の主人公が、学園1位の権力をもつホルダーに決闘で勝ってしまうところから物語は始まります。

ひゅう! 強いヒロイン、かっこいい! でも素朴でちょっと芋っぽい感じで、強いけどギラギラしていないのもいい。それでいて正義感はしっかりしているのもいい。でも戦い方はちょっとえぐい。
彼女の圧倒的強さを誇るモビルスーツはなんなのか。花嫁であるところのお嬢様も跳ねっかえりな感じでいい。女の子同士の恋愛も普通な世界だとか、ほうほう。

という、ガンダムみの少ない始まり方ですが、6話まで来た現在、あくまで決闘ですがモビルスーツ同士の宇宙空間での戦闘シーンや、強化人間等、徐々に世界観が立ち現れてきてガンダムっぽく、血なまぐさくなってきました。

戦争の話ですもんね。

とはいえ、プロローグはしんどかったものの、まだ直接的な戦闘シーンや大量に人が死ぬシーンが無いので比較的心穏やかに見ていられています。

物語の求心力のひとつに、一話で負けた元学園No.1がいます。
モラハラDV男という第一印象だった彼がヒエラルキー最上位から転落し、情けない姿をさらす一方、親の影響やプレッシャーという背景や本質的には誠実で真面目な性格が露わになり、恋は盲目な迷走を重ねまくるので、話数を重ねるごとに好きになっていかざるを得ず、楽しいです。

毎回毎回「えっ⁉︎」と「えっ笑」をくれる彼はすごい。第一印象はあんなに悪かったのに……今や愛おしい。生き延びてくれ。

今回のガンダムは主人公が女性で、仮面のキャラクターも女性です。ですが、あえてそれを強調しておらず、さらっと描かれているのもいい。

でも出てくる魔女たち、まじで食えなそうで怖くて、良い……。
強くてこわくてやり手で神経の細やかな女性は大好きです。

■物語には「傷つけられたい」

なんとなく「ガンダムっぽくないな」と思いつつ水星の魔女を楽しんでいますが、そういえば同じく「ガンダムっぽくない」と言われていた『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』(2015年-2017年)も好きでした。

オルフェンズは、大人に搾取されていた少年兵たちの成り上がり物語。どこまでも泥臭く、スマートさがありません。土埃の中、体を汚しながら汗をかき、戦い方は物理。ビームサーベルをヴォンッというより、斧で殴る感じです。命を削って戦い、成り上がっても成り上がってもチンピラの域を出られない悲哀、みたいなのが好きでした。

個人的には敵キャラのマクギリスが好きで。エレガントに体制側にいる彼も実は最下層の出身であり、その苦労から「出身や身分に捉われない社会」を目指し持ち前の頭脳と美貌としたたかさで成り上がっていきます。

しかし最高の地位を得るという目的を果たした途端空っぽのしょうもないラスボスに成り下がってしまうんです。その無様さがやるせなくて、切なくて、なぜか惹かれてしまいました。

地位を得た途端何をしたいのか、したらいいのかわからなくなってしまったのでしょうか。そこまでたどり着く過程で沢山の愛があったのに全て取りこぼして、自ら駄目にして進んできたのにオチがこれという酷さ。でもそこまで成り上がる原動力も、過酷な幼少期にあるわけで。成功と失敗が表裏一体というかなんというか。

その容赦なさが好きでした。

「物語にはほどよく傷つけられたい」「心をかき乱されたい」「それでいて最後は希望を感じたい」という私の欲望に対し、オルフェンズはバランスのいい物語だったのだと思います。

本作の「水星の魔女」もそこかしこに不穏さがあり、その気になればどこまでもどす黒い話になれそうなので楽しみです。

■待ち受ける過酷さは

物語全体を見ると子どもはどうしても無力で、大人たちに逆らえず、利用されている状況です。今は無双してモテモテな主人公のそういう面が今後明らかになってきたら面白いな、と思っています。

なんたってお母さんの言葉をたびたび引用するくらいお母さんが大好きなのに、そのお母さんがライバルや敵ポジションの「仮面の人」ですからね。こわっ。

プロローグとのつながり、母娘関係、機体の謎、より広範な世界状況など、今後掘り下げられていくと地獄が待っていそうで楽しみです。

それにしても、御三家と呼ばれる、グループ企業内でも特に強力な会社の御曹司たちは親の権力がダイレクトに子の学園内ヒエラルキーに繋がる分、子も親の顔を潰さないように振る舞わなければならず、プレッシャーが大きかったり、自由がなかったり、利用されていたり、養子だったり、既に一緒に働いていたりとしがらみが多くて大変そうですが、親御さんの方も、巨大企業の中でそれなりの地位を維持するには並々ならぬ苦労があるのでは……と思うようになってしまったところに、自分の加齢を感じます。

1話からアクセル全開で面白く、毎話毎話驚かせてくれるのでおすすめです。

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