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『桃太郎』の話を知らない息子に絵本を買ったら「どんぶらこ〜どんぶらこ」の描写がなかった件

誰もが知る「桃太郎」のお話をモチーフにした戦隊モノ『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』に親子でどハマりしていた頃のこと。

「そういえば『桃太郎』のお話知ってる?」

と息子に尋ねると、「ううん、しらない」と返ってきたではないか。

おおーーーっと、これはまずい。

モチーフやパロディは元ネタを知らなければ味わい尽くせない。一般教養としても知っておいた方がいい。というか一般教養レベルだからモチーフになっているわけで。

というわけで、取り急ぎ桃太郎の絵本を購入し、息子も私の膝のうえにどすんと座ってわくわくと読み始めたのだが……

■あると思った「どんぶらこ~どんぶらこ」の表現がない

川の 上の ほうから、大きな ももが ながれてきます。
「おや、まあ。なんて 大きい こと!」
ずっしりと おもい ももを、おばあさんは 川から ひき上げました。
『日本昔ばなしアニメ絵本⑤ももたろう』永岡書店

あ、あれ?「どんぶらこ〜、どんぶらこ」は???

「どんぶらこ」の表現がない……!?

そう、桃が「どんぶらこ」と流れてこなかったのです。

これでは「ドンブラザーズ」のタイトルの説明ができないじゃあないですか……!

「ドン!ドン!ドン!ドンブラコ〜〜!!」と変身するのが謎のかけ声になってしまう。

いや確かに本筋とは関係ないといえばないし、紙幅が足りなくて削らなければならなかったのかもしれない。実際滅多に使わない言葉ではあるけれども。
あるけれども………!!!

「どんぶらこ〜」は、外せないんじゃあないか?

少なくともドンブラザーズを理解するためには欠かせないところなんだ!!!

と思い、他にも桃太郎の絵本を買ったり借りたりして「どんぶらこ」の表現があるか調べてみました。

■意外と多様な『桃太郎』絵本

いくつか絵本を読んでみると、概ね「どんぶらこ、どんぶらこ」という表現が含まれておりました。

たまたま無いものを最初に手に取ってしまったようです。

ただ、違う表現のものもありました。

あるひ、おばあさんが かわで せんたくをしていると、かわかみから、ももが つんぶく かんぶく つんぶく かんぶくと ながれてきました。
『ももたろう』松居 直 文、赤羽 末吉 画

なかなか予想外の表現でした。つん「ぷ」く、かん「ぷ」くと最初読んでしまったのですが「ぶ」でした。濁音。なんかちょっと川の流れが激しそう。野生味があります。

もともと口伝で伝わっていた頃は地域によって様々な表現があったようです。

さて、何冊か絵本を読んでいると、オチも何パターンかあることに気がつきました。

①鬼からお宝を取り返して元の持ち主に戻す
②鬼からお宝をもらって帰る
③鬼はお宝を差し出したが、お姫様だけ連れ帰り、結婚する
④その他(鬼と仲良くなる等)

全体的に悪者を懲らしめてハッピーエンドなんですが、昨今の教育的配慮もあるのか、意外とバリエーションに富んでいます。

また、あまりにも有名なお話だからか、もはやパロディに近いものも。

こちらの五味太郎さんの絵本はだいぶ創作が入っています。特に鬼退治をしたあとが変わっていて、急襲は卑怯だからとサッカーで勝負を決めようとしたり、鬼ごっこをしよう、となったり、そうこうしているうちに他の鬼ヶ島にも行ってみることになったり。

最終的には鬼も桃太郎も、いろんな鬼たちも混ざって仲良くなって多様性のある共同体が生まれるハッピーエンドです。

なんだか現代的ですね。

こちらは俯瞰の視点を入れただけでよく知る物語が新鮮に目に映るのが面白い絵本でした。

展開はオーソドックスなものですが、鬼ヶ島で暮らすたくさんの鬼たちの日常生活や倒された後の死屍累々のさまが描かれており、「いきなり乗り込んできてやっつけるなんて可哀想」という気持ちになります。

どうやら最近は鬼より桃太郎の方が劣勢そうです。

悪いことをしたからっていきなり暴力を振るうのは良くないよね、ボコボコにしたうえにお宝を出させるなんて酷くない? 鬼にだって鬼の人権(鬼権?)なり生活なりがあるわけで……というような視点を現代人が持つようになり、それに物語がどう応えるのか、試行錯誤しているようにみえます。

ヒーローvs悪のわかりやすい対立構造や、暴力の描き方が難しくなっているのかなと感じました。

■なるべく原型に近い話に触れさせたいと思ったけれど

個人的には昔話にはつっこみどころや余白があっても、なるべくそのままの形であってほしい気がします。

あまり理屈はありません。私の感覚です。

人魚姫が泡となって消えるのが怖くてたまらなかったことや、赤い靴も何もここまでしなくてもと震えたこと、マッチ売りが不憫だったり、シンデレラも白雪姫も周囲の人はなんでこんなに意地悪なんだろうと疑問で、思えば昔話や童話には戸惑い恐れた記憶が多いのですが、でもそれがなんかいい体験だった気がするんです。

親や先生は綺麗事を言うけれど、実生活はドロドロして理不尽で力こそパワーでムカつく人もいて、それでもやっぱり思いやりや道徳心は大事だったりする。そういうのを包括していたような気がします。

ただ、桃太郎ともなると歴史がありすぎて何が原典で何が本来の形か定かではなく、「桃太郎が鬼退治をする」という共通した筋はあれど、簡単に「なるべくそのままのものに触れさせたい」などど気軽にいえる類のものではないようです。

グリム童話とか、そのまま子供に触れさせるには残酷すぎて躊躇われるものもありますね。

ちなみに桃太郎は、江戸時代には「桃を食べたおじいさんとおばあさんが若返って桃太郎を産んだ」話と「桃から桃太郎が生まれた」という話が混在していたそうです。

そこから桃から生まれる型が残ったのはなんだか面白いですね。
江戸時代にも、時代の要望からか、勉学に励む桃太郎が描かれたりしていたそう。
いつの世も物語は時代の影響をうけるのでしょう。

思いがけず桃太郎の絵本を複数読むことになり、成り立ちなども軽く調べてみたのですが、あまりにも深過ぎて、知っているつもりで何も知らなかったんだなぁという気持ちになりました。

それにしても「桃太郎の絵本なんてどれも同じだろう」と思って適当に買うと、痛い目をみそうです。

「”どんぶらこ”は外せない」「現代にあった倫理観がほしい」など、こだわりがありましたら、下記に私が読んだ5冊の概要をまとめましたので、参考にご覧ください。

色々な桃太郎に触れたことで、最初から鬼が仲間で、それがちょっとした不思議として吸引力になりつつ、物語終盤できちんと意味を持たせてきたり、登場人物全員に弱みや欠けたところを持たせ、交流を通して絆や希望や理解を生んでいった『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』はやっぱりよくできていたなぁと、改めて好きになりました。

「どんぶらこ~と桃が流れてくるから、ドンブラザーズも『ドン!ドン!ドン!ドンブラコーー!』って変身するんだね」と話したら「ハッ……!べ、べつに、知ってたし~~~!!」と息子も申しておりました。

〇『ももたろう (日本昔ばなしアニメ絵本 5)』永岡書店

■桃の流れる音:なし
■オチ:鬼が人々から奪った宝を取り戻し、持ち主へ返す
■展開の辻褄が合っていて話の流れが整っている。無益な暴力を助長する心配はなさそう。
一方で、話が整い過ぎて違和感がある気もする。
コンパクトで持ち歩きやすく安いので手に取りやすい!

〇『ももたろう (はじめての世界名作えほん)』ポプラ社

■桃の流れる音:どんぶらこ どんぶらこ
■オチ:鬼を退治し宝物を得て凱旋する
■オーソドックスな話だと思われる。「いきなり鬼退治にいく」「なんかわからんが鬼はとにかく悪」「ボコって差し出させた宝を持って凱旋かよ」というツッコミどころはある。
こちらもコンパクトで安く、持ち歩きやすいのに製本がしっかりしていて良い。

〇『ももたろう (日本傑作絵本シリーズ)』松居直 文、松居直 画

■桃の流れる音:つんぶく かんぶく
■オチ:鬼が差し出した宝は辞退し、お姫様だけを連れ帰って結婚し幸せに暮らす
■最初に流れてきた桃をおばあさんが食べ、次に流れてきた大きな桃を持ち帰ると桃太郎が出てくるという展開で、若返って子を産む型の名残りを感じる。各地で略奪行為を働く鬼の話を聞き退治に行くので、案外展開に無理はない。
宝物には目もくれないタイプの桃太郎。
初版発行は1965年。長く愛されている絵本といえるだろう。

〇『空からのぞいた桃太郎』影山 徹 著

■桃の流れる音:ドンブラコ ドンブラコ
■オチ:降参した鬼から宝物をとりあげて凱旋
■俯瞰視点になっただけで新鮮な感じがして面白い。描き込みが細かいので、子どもと一緒にじっくり絵を味わう楽しみ方ができる。雪の場面の桃太郎が地味にかわいい。
鬼ヶ島では大量の鬼が日常生活を送っている様が描かれ、鬼も人間も同じように描かれている。
そこに乗り込み戦った挙句鬼が死屍累々となる絵からは鬼が可哀想だよね、という制作側の意図を感じる。

〇『だれでも知っているあの有名な ももたろう』五味 太郎 著

■桃の流れる音:どんぶらこ どんぶらこ
■オチ:いろんな鬼たちと仲良くなり多様性のある共同体がうまれる
■オリジナル展開をみせるので最初の一冊には向かないかも。「だれでも知っています」と桃太郎の話を知っていることを前提として進みます。「行ってみなければわかりません 会ってみなければわかりません」という言葉が繰り返され、対立や暴力ではなく、対話・交流をしようというお話。
読み聞かせをしていて異様に読みやすく、声に出していてとても気持ちいいところがさすが五味太郎。

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