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短編

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情景を思いつくがままに文章にしてみました。 そしてそれを集めてみました。 インスタントフィクションです。
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2021年7月の記事一覧

願望[インスタントフィクションその33]

この広い研究室に所属する学生は私だけであり、それゆえに黙々と理論にのめり込んでいく。充実したこの部屋には、歴代の所属学生たちがゴミ捨て場や自宅から拾ってきた各種白物家電が揃っていた。そんな部屋に自分一人の状況とはあまりにも宝の持ち腐れであり、最大限できる限りではあるが利用させてもらっている。そんな自分だけの神聖な時間にノックの音が響いた。
「だめだー。全然進まねぇ。」
隣の研究棟に通う学部時代から

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皮肉[インスタントフィクションその32]

「みろよこれ!スッゲェ綺麗だぜ、この満点の星空」
けいたが見せたスマホの画面に一面に広がる幻想的な星空を見て、しゅんたは言葉を失った。世の中にこんな景色があるなんて思えなかったのだ。
「スゲェだろ?凄すぎて保存しちゃったぜ」
満面の笑みを浮かべながらけいたがスマホを片付ける。もうすぐ駅に着く。部活終わりに2人で帰るのはいつもの日課で、けいたはいつも面白いものを見つけるたびにしゅんたにみせてくる。し

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普通[インスタントフィクションその31]

多分全ての人は自分が知らない世界を理解できないのだと思う。
「お前お父さんいないんだってな。かわいそうなやつ。」
父親がいないことは可哀想なことなのか、僕にはわからない。僕の家では父親が一年に3回ほどしか帰ってこない。それが当たり前だったしそういうもんだと思ってた。でもテレビで見るドラマの世界では家にはいつも両親がいて、これが一般的な家族なんだと漠然と理解はしていた。そんなふうだからかむしろこうも

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普遍[インスタントフィクションその30]

「至極当たり前のことを教えてやろう。人間全てに人権があり、その全ては尊重されなければならない。これは過去から未来において普遍的なことだ」
そうだろう。だがしかし、本当にそれは普遍的なことなのか。遠い過去、人間が人間の所有物として扱われるのが当たり前である時代があった。その時代においてはその当たり前こそが普遍的であろう。
「それは人間の過ちだ。人間が同種たる人間を縛るなどあり得ることではない。だから

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