願望[インスタントフィクションその33]

この広い研究室に所属する学生は私だけであり、それゆえに黙々と理論にのめり込んでいく。充実したこの部屋には、歴代の所属学生たちがゴミ捨て場や自宅から拾ってきた各種白物家電が揃っていた。そんな部屋に自分一人の状況とはあまりにも宝の持ち腐れであり、最大限できる限りではあるが利用させてもらっている。そんな自分だけの神聖な時間にノックの音が響いた。
「だめだー。全然進まねぇ。」
隣の研究棟に通う学部時代からの友人だった。やむなしと思いつつ二人分のコーヒーを入れる。まあ、私の研究も順調とは言えなかったのでちょうどいいだろう。
「あれ聞いたか?あの新理論よ」
椅子に座るが早いから口を開くこいつに辟易しつつもそれに答える。
「聞いてるよ。読んでる限りは矛盾のない理論だったな。新しい理論としてとって変われそうだよな」
「おいおい、単純すぎないか?著者の名前知らないの?彼はよくいろんな雑誌で弾かれてるので有名なんだ。あの理論は破綻しているんだよ」
なぜだろうか。信じられるかどうかはどこで決まるのか、私には不思議でならない。

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