普遍[インスタントフィクションその30]

「至極当たり前のことを教えてやろう。人間全てに人権があり、その全ては尊重されなければならない。これは過去から未来において普遍的なことだ」
そうだろう。だがしかし、本当にそれは普遍的なことなのか。遠い過去、人間が人間の所有物として扱われるのが当たり前である時代があった。その時代においてはその当たり前こそが普遍的であろう。
「それは人間の過ちだ。人間が同種たる人間を縛るなどあり得ることではない。だからこそそれは続くことはなかったのだ」
否定したくなるのは理解できる。しかし本当にそうだろうか。例えば動物を傷付けることが罰となる当たり前があった。人間以外の動物を人間の所有物として扱う当たり前があった。餌としかみなされない動物という当たり前もあった。遠い未来においてそれらが覆ることがないと言えるのか。人間が色の違いで優劣を決定したように、命あるものを人間かそれ以外かで優劣を決めているとなぜ思わないのだろうか。
「人間は知能がある。自我があり、意志がある。それは当然のことで覆ることはないだろう」
人間の知能が動物を凌駕するとなぜ信じられる。自身を認識できるほどの知能を有した鳥の存在があり、出来事を決して忘れないほどの記憶力を有した象が存在している中で、人間の知性の優位性をどれほど信じられるというのか。
「知能があれば伝えられるはずだ。そうでないならば所詮動物ということだろう」
認識できないものはないと断じてしまうのは動物よりもむしろ愚かであろう。そうであるならば人間を超える知能を有する生命が生まれた時、我々は淘汰され、家畜化され、従えられなければならない。そんなことは決して許容できないだろう。

対話が終わることはないだろう。

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