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【詰】ポテンヒットは美しい

金属バットの鈍い音。舞う打球。『静寂』もしくは『戸惑い』にも似た歓声。そして選手達の思いが交錯した打球がフェアゾーンに落ち、大歓声に変わる。

そんな高校野球でのポテンヒットに心を動かされる瞬間がある。今回は特に印象に残っている甲子園で放たれたポテンヒットと共に、その魅力を言葉にしたい。


ポテンヒットを定義する

正式名称はテキサスヒット。緩く上がった打球が内野と外野の間に落ちるヒットの事でプロ野球では全安打の約2%がこれに該当する。(NHK『球辞苑』より)

『緩い打球』つまりピッチャーにとっては打ち取った当たりがヒットになる。打った方はラッキー。守っている方はショック。そんな、選手のメンタルにも影響を与える1本のヒットに情緒が詰まっている。

名ポテンヒット①

2014年 夏の甲子園決勝 大阪桐蔭VS三重
3対4 大阪桐蔭ビハインドの7回裏 二死満塁 
打者:大阪桐蔭の主将 中村誠選手

1ボールからの2球目。
インコースのボールを振り抜いた中村選手の打球はダイビングキャッチを試みたセンターの前に落ちる。(このセンター長野主将の三重高校躍進の立役者ぶりも印象的)

これが決勝の逆転タイムリーとなり大阪桐蔭が全国制覇を勝ち取った。
『平成最強校』と言っても過言ではない大阪桐蔭。
この年の全国制覇も順当と思える人は多かったかもしれない。しかしその後の優勝インタビューを聞くと決して順風ではなかったことが伺える。

『去年の秋、コールド負けしてから夏に日本一になる為にやってきました』

中村主将は涙を堪え切れずに答えていた。

この2年前、藤浪晋太郎を擁して春夏連覇。その翌年の森友哉の世代まで4期連続で甲子園に出場。
しかし後を受けたこの世代、コールド負けにより春の甲子園を逃していた。
そんな重圧と戦う中で勝ち取った夏の頂点だった。

〈参考資料〉

名ポテンヒット②

2020 夏の甲子園(交流試合)  大阪桐蔭VS東海大相模
2対2の8回裏 大阪桐蔭の攻撃は1アウト2.3塁
打者:大阪桐蔭の主将 薮井駿之裕選手。

前の回から守備についていた背番号14。
控えのキャプテンに打席が回ってきた。
名門大阪桐蔭で2桁番号をつけた主将はフルカウントからの9球目だっただろうか、インコースのボールを振り抜く。
力なく見えた打球がレフト線にポトリ。
2人のランナーが生還した瞬間、無観客の甲子園に薮井選手の雄叫びがこだました。

このポテンヒットが決勝タイムリーとなり、東西横綱対決を大阪桐蔭が制した。
試合後の薮井選手のインタビュー。

『最後は部員63人の力をまとめて自分が打とうと思った』

この一言に彼がキャプテンである所以やどん詰まりの打球が値千金の結果を引き寄せた理由が込められている気がした。

戦後初の大会中止により交流試合となったコロナ禍での甲子園。それぞれの想いが込められた大会。
この試合で一時逆転となった東海大相模の神里選手のタイムリーヒットも詰まった打球がセンターの前に落ちた。これも必然性を感じずにはいられない。

ポテンヒットの魅力

私は残念ながら甲子園でプレーした事はないが、甲子園春夏連覇を達成する高校の野球部がどのような高校生活を送り、その高校のキャプテンがどれほど高い意識でチームをまとめているかを知っている。

2学年上の先輩達が春夏連覇を達成(2012年と2018年)、その重圧と戦い、挫折や逆境を経験し、この打席を迎えた中村選手と薮井選手。
『気持ちで打つ』『野球の神様が微笑んだ』
高校野球ではこういった根性論や抽象的表現が多用されるが、特にこの2本のポテンヒットには彼らの努力という具象的要素も凝縮されていると感じる。

ちなみに2010年の春の甲子園
私のチームメイト、我如古盛次が大会最多安打の新記録となる13本目のヒットを放った。
これもライト前へ落ちるポテンヒットだった。

ポテンヒットが放たれた時、そこに至る選手達の努力を野球の神様が放っておかなかったのではないか。そう感じてやまない。

ポテンヒットは美しい!

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