chatGPT4を反射板として使いながら、Ney & Partnersでの5年の経験を振り返り、最近まとめたレクチャーの内容を記事にした。あまりに長過ぎたので5つに分割して掲載している。これはその3つ目だ。
図式
図式化と中動態
この2項は1つ目の記事に掲載
図式と表記法
アルベルティ・パラダイム
この2項は2つ目の記事に掲載
図式の関数化:オブジェクティル
マリオ・カルポによると、アルベルティがより先進的だったのは、活版印刷が既に登場しているにも関わらず、図面のコピーを配布するのではなく、図面を、計算法の指示と数字のリストを提供し、都度、再作図させるべきだと考えた点だ。つまり、図面をアルゴリズムによる指示に置き換え、それを人の手で再現させようとした。情報の伝送過程において、再現性の高さは、情報の抽象度の高さに比例する。アルベルティは複雑なドローイングやイメージより、シンプルな幾何学、数字とテキストによる指示の方が望ましいと考えた。
しかし察しの通り、当時の社会では、当然アルゴリズムによる設計意図の再現はアルベルティの期待した効果を発揮しなかった。そして現代、アルゴリズムを完全に再現することができるコンピュータとデジタルファブリケーションの登場により、建築はデジタル・ターンを迎える。
アルゴリズムによる表記法によって、かたちの図式を関数として定義し、計算機に演算させることで複雑なモデリングを自動化することが可能になる。形のアルゴリズムは関数であるため、個々の要素は独立して編集が可能で、交換が可能、部分の編集によって全体性が崩れないという柔軟な可変性を持つ。また、パラメータの組み合わせ次第で無数の異なる解の可能性を同時に持ち、その選択と変更が容易に実行できる。このデジタルな特徴を持つものをオブジェクティルと呼び、その内特定のパラメータの組み合わせを持つものがオブジェクトである。
オブジェクティルは、アルゴリズムに基づく微分的差異をもち、無限個のオブジェクトを含む関数であり、ある系列をなすヴァリエーションであると同時に、特定の解を探索するプロセスそのものである。
その一例として、フォーム・ファインディングの一種、遺伝的アルゴリズムによる多目的最適化を行った、YSポール照明柱製品開発のプロジェクト:DROPSを紹介する。
コンセプトはポールから灯具までシームレスな面で構成したシンプルな立ち姿である。
そのかたちの図式をアルゴリズムによる表記法によって関数化(オブジェクティル)した。製作コストの観点から表面積の最小化、視覚的な観点からエッジの滑らかさ、背面の滑らかさを目的関数(制約条件)に設定し、かたちの無数のヴァリエーションから最適解(オブジェクト)の探索を行っている。これは設計段階において、複数の制約条件を重ね合わせ一つの図式に統合し、無数の異なる解の可能性を唯一つに絞り込む過程に対応する。
このプロセスは言い換えると、類をデザインして種を選択するということだ。ダーシー・トムソンは『生物のかたち』の中で、ある魚にグリットを重ねると、すべての魚は初期グリットの変形で記述できることを発見した。
続く鋳物照明柱の製品開発では、3DP砂型積層造形によるダイレクト鋳造を採用した。一般的に、鋳物製品は木型原型から量産用の砂型を作成し、その砂型に鋳鉄を流し込んだ後砂型を除去して製品に仕上げる。このため木型の型代を償却するために、同一的コピーの大量生産・大量消費を前提としなければならない。3DP砂型積層造形によるダイレクト鋳造は、木型の原型を必要としないため、オブジェクティルのデザインを特定のオブジェクトに固定する必要がなく、都度異なるヴァリエーションを出力できる。但し、現段階では3DP砂型造形コストの問題で頓挫している。
建築におけるオブジェクティルを実現した例として、Ney & Partnersで担当した新さっぽろアクティブリンクを紹介する。
病院4棟、タワーマンション、商業施設、ホテルの7つの建物を楕円のかたちに道路を跨いで楕円形で接続する上空通路は、敷地を跨ぎ溶接一体の共有物である。楕円であることによって、力がバランスし内側に柱が一切なく、フレームレスガラスで街区を一望できる開放的で象徴的な空間をつくると同時に、札幌の冬でも歩きやすく回遊性のある豊かで楽しい歩行空間を提供している。
リンクは仕上げがなく構造そのものが意匠となることで、道路上へのパネルの落下リスクもなく、メンテナンスが容易で維持管理コストを抑えられるため、カーブした道路横断が可能となっている。また、溶接構造で止水性に優れ無防水で、外表面は突起がないため塗り替えしやすく、橋梁系塗装で塗り替えサイクルを延ばしている。
透明性の高い軽快な構造を実現するために、柱は力の大きさに応じて漸次的に変化し、また建物のレベル差を吸収するために全体が1.45%傾くようにせん断変形させている。
このように、様々な観点から複数の制約条件を重ね合わせた上で、一つのシンプルな図式に統合しようとすると、結果として、個々の要素は複雑なパラメータのコントロールを要する。建築プロジェクトは、その進行過程において、協議により変更が生じたり、新たな制約条件が加わる中で、図式を適宜編集し更新するための柔軟性を求められる。そこで、図式をアルゴリズム、関数によって定義することでその課題解決を図った。アルゴリズムは関数であるため、関係者との協議過程で生じる様々な変更や新たな制約条件の追加に柔軟に対応でき、統合されたシンプルな図式を保ったまま、各要素の複雑なコントロールが可能になる。
一方で、アルゴリズムは計算機に読み込ませて演算させるには都合が良いが、建築は人の手で製作し施工するものであるため、それを人が理解し再現できる表記法を開発する必要があった。それが幾何形状図である。これによって形のルールを人から人に伝達し、製作の人の手で製作マスターモデルが再現された。この製作マスターから切板のためのネスティング図、3次元レーザー計測のための座標リストなど製作、施工に必要な情報が出力され管理される。
この段階から製作マスターがオリジナルになる。
1/10模型による組み立て手順の確認、1/1モックアップによる変形のコントロール、溶接仕様の変更など製作段階での検証を製作と設計で共に協議し、製作マスターをアップデートしていく。工場製作から現場まで何度も足を運び、施工者と対話を続ける中で図式のディテールをアップデートしていく。
アルベルティ・パラダイムの中では、ある時点から設計の同一的コピーを施工する前提により、施工段階に生じる変更には手続きの時間とコストが生じる。そのオルタナティヴとして、設計コードと製作マスターの間を人と人がつなぐことで、図式を保ったまま変更の柔軟性を獲得することを目指した。これは施工までを含めた概念的な意味でのオブジェクティルの実現であり、自著的芸術と代著的芸術の中間にある共著的芸術としての建築を意味する。
設計から製作まで貫くオブジェクティル、共著的芸術としての建築をつくるために、アルベルティ・パラダイムが確立した責任分界点を融解させることを選択したが、これは同時に設計が無限の責任を追っていくデメリットをもたらす。故に、相互信頼を構築するコミュニティケーションの在り方が重要であり、それを続く中動態的アプローチで議論する。
以下に続く
中動態的アプローチ
複数性とアウラ=この性
アウラと参加性
議論のための図式
過程の中に在り続けること