chatGPT4を反射板として使いながら、Ney & Partnersでの5年の経験を振り返り、最近まとめたレクチャーの内容を記事にした。あまりに長過ぎたので5つに分割して掲載している。これはその2つ目だ。
図式
図式化と中動態
上記2項は1つ目の記事に掲載
図式と表記法
さて図式にはその表記法が特に重要である。テキストや数字、記号、アルゴリズムから図面、3Dモデルや模型も表記法の一部だ。建築の設計者は、この表記法を媒介することによって、捉えにくい空間を計測・記述し、これを操作・計画することが可能になる。デカルト座標系による記述、ジオメトリの定義、図面などがそれにあたる。
空間には2種類がある。ひとつは前述した計画される空間、計測される空間であり、もう一つは、アフォーダンスの文脈で語った、知覚される空間、人に生きられる空間である。建築家は図面で表記し計画した空間を、模型や動画のレンダリングを通じて知覚的なシミュレーションを行い、その結果を計画にフィードバッグする。建築デザインはこの両者を行き来しながら、空間の図式を更新ししつづける仕事だ。
設計段階における図式化とは、プロジェクト固有の制約条件を洗い出し、それらを重ね合わせ図式化していく過程である。制約条件が少ない段階では解は複数の可能性が想定でき、一つには定まらない。しかし、複数の異なる観点からの制約条件から導かれる各々の図式を重ね合せ、それらを一つのシンプルな図式に統合することで、唯一つの固有解を発見し得る。それは普遍性と同時に固有性をもつ解となる。
複数の観点の制約条件から図式を導き、それを一つのシンプルな図式に統合していく例として、Ney & Partnersで設計を担当した長崎市にある新大工町歩道橋を紹介する。
まずは、力学的安定性を保つという制約条件から、自重による曲げモーメントに抵抗するための構造高を逆モーメントの形状で確保し、その立面をシンプルな図式に整える。
また、曲げ圧縮が大きく働く箇所でフランジを拡幅し、その結果ずれたフランジエッジを折れたウェブの面でつなぐ構成とした。これによって、折れた立面に空模様と都市の風景が反射する力学と体験を統合した図式が導かれる。
一方で、製作過程の制約条件からも図式化を行う。橋梁の製作は、鋼板をレーザー切断し、プレスで曲げ、組立て、溶接し、切削して仕上げるため、一枚の平面に展開可能となる鉄の折り紙のようなかたちの図式を採用した。
これは同時に、一般的な化粧板で主構造を覆う形式の歩道橋と比べて、主構造が自体が表現となることで、パネルで覆われず直接目視点検可能なことから、維持管理の容易さとそのコストを圧縮するメリットが生まれる。それと同時に、1枚の板で構成されるかたちの図式は、ウェブ面への孔開けによる夜間の演出照明を可能にしている。
孔の一部にはミッフィーをかたちどったものがあり、出島表門橋公園のミッフィーかくれんぼ企画と連動することで中島川と長崎街道を巡るアクティビティを誘発する。
このように複数の制約条件から導き出される各々の図式化とそれらを統合した図式化を行うことで普遍性と当時に固有性を持つ唯一つの解を探り出す。
建築において、図式の表記法は特に重要である。何故なら建築は代著的芸術だからだ。その起源を続くアルベルティ・パラダイムで詳細に論じている。
アルベルティ・パラダイム
マリオ・カルポ著『アルファベットそしてアルゴリズムー表記法による建築』によると、近代の建築システムの起源は、ルネサンス期のアルベルティ・パラダイムに遡る。ルネサンス期の建築家レオン・バッティスタ・アルベルティは、初めて建築の計画図面の体系化を行った人物だ。アルベルティは、表記法に媒介させることによって、建物を建築家によるデザインの同一的なコピーとして位置付け、それを施工させようとした。つまり、表記法を開発することで、デザインこそがオリジナルであり、建物はそのコピーに過ぎないと主張し、建築家の原作者性を確立しようとした。
ルネサンス以前では、建築家はイメージパースによって建築を表現し施工させていた。故に、イメージを人の手で複製するため複製エラーが度々生じ、また、必要な情報が網羅されていないため職人が想像で補完し、適宜職人によるカスタマイズがなされながら建物は施工されていた。
アルベルティ・パラダイム以降、活版印刷術の普及によって図面の同一的コピーが可能になるとともに、コピーが文化的に受容される。続く産業革命によって、機械化に伴う規格化と標準化が同一的コピーの大量生産を推し進めた。斯くして、デザインの同一的コピーを施工する近代の建築システムが確立する。
同時に、アルベルティ・パラダイムは、設計と施工の責任を分離に帰結した。設計図書が綴じられたある時点から、それに対する施工の見積もりはその同一的コピーをつくるという契約を意味する。これによって、施工側は見通しの効きづらいリスクの大きいチャレンジングなプロジェクトには、数倍の見積もりを出す必要が生じ、設計側は設計図書の完全性を担保するために、標準化と規格化の圧力を受けるようになる。
アルベルティの業績は原作者性の確立だけに留まらない。その先進性を次の項で議論する。
以下に続く
図式の関数化:オブジェクティル
中動態的アプローチ
複数性とアウラ=この性
アウラと参加性
議論のための図式
過程の中に在り続けること