台湾海峡 波高し
ここ最近、台湾をめぐる情勢で緊張が高まるシグナルが相次いで出ています。直近でいうと、9月29日、台湾国防部が中国内陸部で同時多発的なミサイル発射実験を探知したと明らかにしました。
台湾が中国に対する偵察能力の一端を開示することは珍しいです。世界に向けたアラートという意味合いがあるのかもしれません。
ミサイル発射場所の一つ 内モンゴルといえば…
台湾国防部によれば、中国のロケット軍と陸軍が実施したミサイル発射は、内モンゴル自治区、甘粛省、青海省、新疆ウイグル自治区だったとのこと。いずれも内陸部で、台湾から近いわけではありません。
しかし、内陸だからといって、中国の指導部と軍が台湾のことを念頭に置いていないはずがありません。とくに気になるのは内モンゴル自治区でのミサイル発射。というのも、内モンゴルには中国軍が台湾総統府とその周辺の市街地を模して建造した訓練場があることが明るみになっているためです。
台湾側は、総統府に対する攻撃を準備する目的でこのような「仮想台湾総統府」が造られたとみています。まあ、それ以外に考えられません。
こうした訓練場は北朝鮮も造っていて、青瓦台(前の韓国大統領府)にそっくりな建物を建てています。大きさは本物の青瓦台の半分ほどだそうですが。
ICBM発射訓練 そして台湾周辺での軍事訓練活発化
内陸部でのミサイル発射に先立つ9月25日、中国軍は太平洋に向けてICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を行いました。
海上へのICBMは1980年以来44年ぶりということですが、私は「1980年の時点で既に中国はICBMを保有していたのか」ということに驚きました。中国全土を大混乱に陥れて死者1000万人ともいわれる毛沢東の文化大革命が集結したのが1976年、鄧小平による改革開放が始まったのが1978年。
つまり、80年にICBMを発射しできたというのは、文革のような狂気が猖獗を極めようと、改革開放のような対外的にオープンな姿勢に転じようと、軍事力増強は(スピードの差はあれ)続いていたと考えるべきでしょう。
話を現在に戻すと、中国は今回のICBM発射をアメリカに事前通知したということです。アメリカ国防総省は「そうした通知は誤解が生じるのを防ぐ」と評価するコメントを出していて、それは間違いではないものの、そこまで高く評価するべきかは疑問です。
というのも、事前に知らせようと知らせまいと、中国が発信した警告はただ一つ。「台湾有事でアメリカが介入すればICBMを発射してでも阻止する」ということに尽きます。もちろん、そうなった場合に撃たれるICBMの弾頭には核が積まれます。
今回のICBM発射訓練の翌日、9月26日には、台湾国防部が中国軍が2日続けて台湾周辺でかなり活発な行動をしたと明らかにして、抗議しています。
軍の汚職を意識した?
一連のキナ臭い動きは、中国軍、とりわけロケット軍で汚職が相次いで摘発されたことと関係しているという見方もあります。幹部らが拘束されて軍隊としての戦闘能力に疑問符が(また)浮上したため、「動揺などない。むしろ戦力は拡充している」と内外にアピールするのが目的だったのでは、という分析です。
そうだといいのだが…というのが感想です。台湾への軍事侵攻に向けたステップが進んだのでなければ、それに越したことはありません。
一連の軍事的な動きを踏まえてなのかは微妙ですが、中国の王毅(おう・き)外相が9月28日に国連総会で演説しました。そして、台湾は必ず統一すると改めて世界に向けて公言。
こうした発言も、「お約束」のポーズに過ぎなければいいのだが…というのが感想です。王毅外相をはじめ、14億人の中国人の殆どが、台湾に対する軍事侵攻はアメリカ軍との全面的な衝突につながって双方に夥しい犠牲者が出かねないから避けるべきだと理解しているように思えます。
にも関わらず「ひょっとしたら…」と懸念せざるを得ないのは、今のように習近平国家主席一人に権限が過度に集中している状態では、習主席一人が現状認識を誤って軍事侵攻を命じ、それを誰も止められない、という悪夢のようなシナリオが完全には否定できないからです。
深圳での事件に関してお伝えしたように、江沢民が推し進めた「愛国主義」は日本憎悪とほぼ同義でした。それはそれで非常に問題でしたが、胡錦涛政権がその行き過ぎたナショナリズムを修正しきれないまま、次にトップの座についた習主席は再び「愛国主義」全面展開となりました。しかも、習主席の「愛国主義」は、日本だけでなく、アメリカはじめ西側諸国全体を敵視する色合いが濃いものです。
その裏には、「かつて欧米列強に奪われた土地を奪い返してこそ、中国は『百年国恥』を払拭できる」という強烈な信念があります。「百年国恥」は、1840年のアヘン戦争から1945年の太平洋戦争終結までの期間を指します。残されている(と中国が考える)最後のピースが、台湾です。
台湾をめぐる中国と西側との対立は、もちろん日本も他人事ではありません。むしろ、日本の政治指導者たちは「もし有事が起きたとき、日本としてどう動くべきなのか」について国民と真摯に対話する必要があります。そうした対話を避けながら中国に対する軍事的な抑止力強化を既成事実化させようという姿勢では、国内の分断を深めるだけでしょう。
おりしも石破茂氏が次の首相になることが決まりました。
防衛政策に精通しているとされる石破氏、本来なら解散・総選挙を急ぐのでなく、台湾情勢を含めた安全保障に関して透明な議論を国会で展開してほしかったのですが… どうもその気はないようです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?