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読みは外れて露朝新条約が公開

すみません、今回は読みが外れました
ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記の首脳会談で、両国が結んだ「包括的戦略パートナーシップ条約」の内容がすぐには発表されなかったので、てっきり手の内は隠し続けるかと思い、そうした記事 ↓ を書いたのですが…

記事を出したのと前後して、北朝鮮が新条約の内容を公開しました。
というわけで、書き直しです。


第4条に「軍事支援」

露朝の新条約のうち、軍事協力に関する内容は第4条に盛り込まれていました。北朝鮮国営メディアによれば、それは「双方(朝露)のいずれかが個別の国または複数の国から武力侵攻を受けて戦争状態に陥った場合、他方は国連憲章51条と朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の法に準じて遅滞なく自らが保有する全ての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」とのこと。

この文言は、1961年に当時のソ連・フルシチョフ首相と北朝鮮・金日成(キム・イルソン)首相との間で締結された「ソ朝友好協力及び相互援助条約」の第1条と、ほぼ同じです。

もっとも、「全ての手段で軍事的およびその他の援助を提供する」というのは、具体的に何を指すのか、解釈次第のところがあります。
前の記事で書いたように、「朝鮮半島有事が起きればロシア兵たちが雪崩を打って北朝鮮領内に進み、米韓連合軍と激突する」という、第3次世界大戦のようなシナリオだと解釈できなくもありませんが、1961年と現在とでは、軍事衝突の様相は、だいぶ異なります。米ロが戦火を交えることになれば、現在では朝鮮半島の局地戦では済まない可能性が高いです。
「援助を提供する」というのは、どちらかというと兵器の提供のように読めます。

ただ、国連憲章51条(1961年の条約では言及なし)というのは集団的自衛権のことを指していますので、今回の新条約、金正恩氏が盛んに口にした「同盟関係」という性格を帯びていることは確かだといえます。

会見時の温度差は?

では、なぜ会見で「同盟関係」という言葉を使ったのは金正恩氏で、プーチン氏は避けたのでしょうか。

両者の間に温度差があったのは明白。
北朝鮮からすると米日韓と対峙するうえでロシアの後ろ盾があるのは非常に心強いです。でも、ロシアからすると仮にウクライナやNATO軍から攻め込まれたときに北朝鮮軍がはるばるロシアを横断してヨーロッパに駆けつけることは、まあ想定していないでしょう。

前の記事で書いたように、ロシアの立場としては、北朝鮮からミサイルを購入してウクライナで使用してきたことがバレてきたので、そうした軍事協力を正当化したいという思惑が強いように映ります。
それに、ウクライナでの戦争が終わってからも「自分たちは北朝鮮の同盟国」とアピールするのは得策ではないという計算もあるでしょう。

どのみち米日韓が北朝鮮を攻めることはない

このように、今回の条約が軍事同盟なのかどうか、露朝の間で微妙なテンションの違いはみられますが、しかしロシアがモンゴルなどと結んでいる同じような題名の条約とは大きく違い、軍事協力が強く打ち出されたのは確かです。
言い方を変えれば、朝鮮半島有事の暁には、ロシアが中立を決め込むことはないと考えていいでしょう。

北朝鮮からすると、自分たちの体制を保証するうえで強いカードを手に入れたと喜んでいるでしょうが…そもそも米日韓が北朝鮮に先制攻撃をすることはありません。有事が起きるとすれば、それは1950年の朝鮮戦争勃発と同じく北朝鮮による攻撃からです。「汚物風船」をせっせと飛ばしているくらいなら、まあ大きな問題ではありません(回収作業は苦痛ですが)。

なので、日本政府などは今回の条約に浮足立たないよう注意すべきですが、こうなってくると大きな懸念は「北朝鮮がロシアからの軍事支援をあてこんで韓国に対する挑発を激しくしやしないか」です。
可能性は高くありませんが、北朝鮮指導部が「戦争になればロシアが介入してくれる」と気を大きくして自分たちから紛争を引き起こす、いわば冒険主義に走るリスクですね。

今回の露朝新条約をどうとらえるべきか、これからしばらく分析が続くでしょう。とくに、中国は露朝の接近に拍手しているわけではなく、韓国との意思疎通をけっこう意識しています。そのあたりは、また別稿にて。

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