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地域のつむぎ手の家づくり|小さなつくり手の灯を絶やさない! 大工や小規模工務店向けのサポート事業展開<vol.43/calm建築設計by市川住建:新潟県新潟市 >

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。
この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。


今回の<地域のつむぎ手>は・・・


市川住建(新潟県新潟市)の市川隆志さんは、昨年末まで新潟県内の工務店で設計業務を手がけていた建築士の川上智子さんを社員として迎え入れ、「一人親方」の大工や小さな工務店などをサポートする事業を展開しています。市川さんは「住まい手に寄り添うことができる家づくりや災害時の対応、技術とものづくりの楽しさを次世代につないでいく役割など、小さなつくり手による家づくりの灯を決して絶やしてはならない」と訴えます。

社内に「calm建築設計」を立ち上げ、大工や小さな工務店などのサポート事業を展開する市川隆志さんと川上智子さん


同社は今年2月、新たに社内に「calm(カーム)建築設計」を設立しました。県内の構造設計事務所や工務店などで長年にわたって設計業務を手がけてきた川上さんが、そのスキルと経験を生かしながら、他社のプラン作成や作図、各種の計算(断熱・耐震性能など)、申請といった業務を代行します。腕(技術)を生かしたものづくりは得意でも、そうした面は少し苦手、何よりも多忙な現場に追われて対応している時間が限られているという大工や小規模な工務店にとっては、非常に有益なサポートです。

市川さんは「実は経営も設計も現場もこなす一人親方の大工や小さな工務店の多くが業務の一部をアウトソーシングできたらいいなと考えているが、外部への発注の仕方自体が分からずに、結局、自ら抱え込んでいるケースが多い」と指摘します。市川さんと川上さんは「“部分的なお手伝い”を得意とするcalm建築設計によって、職人さんや工務店さんの“円滑剤”を目指したい」と抱負を語ります。

「相談でも雑談でも、気軽に連絡いただけるような存在になりたい」と川上さん。「どんな業務を、どのように切り離せばいいか」といったところから臨機応変に対応。市川さん、川上さんとも「地域の建築業界を盛り上げていくために、『新しいことにチャレンジしたい』という思いを持っている人たちをサポートしたい」と力を込めます。

勤務していた工務店を退職し、市川さんと共に活動する川上さんは「建築の楽しさをダイレクトに感じながら仕事をしていきたい」と話す


厳しい市場環境に対応

市川さんは、深刻さを増す資材価格の高騰や、省エネ基準の適合義務化、4号特例の縮小検討(住宅の耐震性強化のための法改正)といった流れなどを踏まえながら、「いまの市場の環境は、まるで小さな事業者に対してゲームからの“退場”を宣告しているかのようだ」と表情を曇らせます。

市川さん自身は、川上さんが入社するまでは、自分1人で「波板1枚取り換える修繕」から店舗リノベーションまで年間150件の工事をこなし、クチコミ・紹介により受注が途切れることがないというスタイルを確立してきました。大工という仕事に情熱とプライドを持って向き合っています。しかし、昨年あたりから、大工や小規模工務店の仲間から、「厳しい」といった声をよく聞くようになり、「何か力になれないか、仲間同士がつながり助け合い、この危機を乗り越えていくことができないか」といったことを考え始めたそうです。

市川さんは、店舗のリノベーションやバリアフリー改修など年間150件もの工事を手がけてきた


ものづくりの楽しさ大切に
「何か面白いこと」を

そんなタイミングで、企業やプロ・アマチュアの枠を越えて建築や家づくりの学びを深めスキルアップを目指す新潟県内のコミュニティ「住学(すがく)」の活動で、県内の工務店で設計担当として働く川上さんと知り合ったのです。川上さんは、新築・リノベーションなど年間数十棟という数多くのプラン・設計を手がけながら、「お給料や福利厚生面など本当にありがたいと会社に感謝しながらも、効率・分業化やルール化によって制限が多く、やりたいことができない、ものづくりの楽しさを感じにくいことにやり切れない思いを抱えていた」と話します。

そんな川上さんに、市川さんの姿は、とても新鮮に映りました。「会社に守られていない環境で、自分はどこまでできるのか、1度きりの人生で挑戦するには今しかない」と川上さんは退社を決意。一方で、市川さんは、川上さんの高度な設計スキルが、自分だけでなく小さなつくり手の仲間たちにとっても「力強い武器になる」と直感。「建築の仲間や地域に貢献しながら、何か面白いことができるのではないか」と共に活動していくことを決めたのです。

「仲間同士がつながり助け合いながら、危機(厳しい市場環境)を乗り越えていきたい」と語る市川さん 


顧客にとことん寄り添う
“最強のスタイル”

川上さんは、一人親方や小規模な事業者による家づくりについて「生涯にわたって顔の見える関係で、住まい手の暮らしにとことんまで寄り添うことができる“最強のスタイル”」と評し、「それが厳しい市場環境のなかでふるい落とされてしまうのは寂しい」と語ります。仕事の合間を縫って、台風や地震などの被災地に駆けつけ、大工としての技能を生かしてボランティアで復旧作業などを行うことがある市川さんも「大工や職人は、いざという時に自らの判断で迅速に動くことができる。それに対してハウスメーカーの下請けや企業に所属する大工・職人は自由に動けるわけではない」とし、「災害対応能力を保持するという側面からも、小さなつくり手たちの存在を重視し、確実に次世代へとつないでいくべきだ」と訴えます。

市川さんは、3月に起きた地震で被害を受けた福島県に駆けつけ、ボランティアで応急復旧作業を行った。一人親方の大工は災害時も含めて自らの意思と裁量で自由に動けるため、災害対応に欠かせない存在だ


市川さんは、自身が中心となり、建築職人集団「新潟八輝会(にいがたはっきかい)」としての活動も展開し、地域の子どもたち向けの木工教室や、時には足場を組んでつくった巨大迷路や高所作業車の乗車体験といったことが楽しめる大規模なイベントなどを開催しています。大工や建具、内装、左官、塗装などの職人の有志が集結し、イベントを通じて“かっこいい大工・職人”の存在をアピール。市川さんは「かつてのように、子どもたちが大工や職人たちに憧れるような世の中を少しでも取り戻したい」と思いを語ります。

市川さんは、地元の有志による建築職人集団「新潟八輝会」の活動で木工教室や足場で組んだ巨大迷路などを通じて地域の人たちを喜ばせながら“かっこいい職人”の復権を目指している


文:ハウジング編集部





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