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地域のつむぎ手の家づくり| 子育て世代に手の届く価格で住まいをリノベーションの“体感スタジオ”開設 <vol.61/大井建設工業:長野県御代田町>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。

今回の〈地域のつむぎ手〉は・・・


大井建設工業(長野県御代田町)は今年、新幹線が停車する佐久市の佐久平駅に近く、大型商業施設に隣接する場所に、性能向上リノベーションと中古住宅の買取再販を本格的に展開していくための発信拠点として「リノベーションスタジオ・リノエル」をオープンしました。

同社社長の大井康史さんは、地域で増加している移住者のニーズも取り込みつつ、「地域課題となっている空き家問題の解消や脱炭素社会の構築に貢献しながら、子育て世代にも手の届く価格で良質な住まいを提供していきたい」と意欲的にリノベに取り組んでいます。

性能向上リノベーションや中古住宅を有効活用することのベネフィットを分かりやすく示す体感拠点「リノベーションスタジオ・リノエル」の外観

リノエルは木造(SE構法)平屋一部2階建て・延べ床面積約460㎡の規模。事業再構築補助金を活用しながら、総事業費1億円余りを投じて整備しました。

リノベのショールームとして、北欧に多い経年変化を楽しむ価値のある家具が似合う「ヴィンテージ」やヨーロッパの古典的な建築様式を取り入れたアンティーク調の「クラシック」、古材を使用した武骨なデザインが特徴でDIYもできる「ラフ」、現代的で洗練された「モダン」のテーマ別に4つの空間を設けています。

「リノエル」内に設けた4つのテーマの空間。上から:ヴィンテージ、クラシック、ラフ、モダン

大井さんは「リノベ自体が生活者に浸透しているとは言えず、まずは目で見て、体感して『リノベってこんなことができるんだ』と理解してもらうことが大切です」と施設を整備した理由を説明します。そのほか施設内には、断熱や耐震など住宅の性能について解説するコーナーやセミナールームなどもあります。

“新築減少時代”に対応

この施設を発信拠点として同社は、性能向上リノベーションと組み合わせた中古住宅の買取再販事業を本格的に手がけ始めました。大井さんは「空き家の抑止など地域・社会の課題解決に貢献したいのはもちろんですが、同時に、住宅市場が本格的に“新築減少時代”に突入することや直近の資材価格、物価上昇に伴う住宅の価格高騰といった深刻な問題への対応策でもあるのです」と語ります。

同社は新築注文住宅を年間40棟ほど提供し、地域の30~40代の子育て世帯に人気の工務店ですが、大井さんによると、資材価格高騰のあおりを受け、現在の1棟あたりの単価は土地を含めるケースだと3500万~4000万円程度になってきてしまい、「地元の“ごく普通”の子育て世代には手が届きにくい価格帯になりつつある」とのことです。

新築の7割程度の価格で

そこで同社では、リノベと買取再販により、「イメージ的には土地・建物込みで新築の70%程度(2500万~2800万円)に価格を抑えた住宅を提供していきたい」考えです。地域では「新築を建てたくても利便性が高いエリアでは、もう土地が無い」という実情もあり、大井さんは「中古活用に対する潜在的なニーズは大きい」とみています。

取得する中古住宅は新耐震基準(1981年以降)の物件を対象とし、技術力を生かして、スタジオで提案する空間を高い精度で再現しながら、断熱はZEH以上、耐震は等級1以上の性能を確保。大井さんは「新築並みの快適・健康で、経済的(省エネ)な暮らしを実現できることを示しながら、『中古でいいや』から『中古がいい』に変えていきたい」と理想を描きます。

移住ニーズにも応える

リノエルには、東京からの移住者で軽井沢町に住む夫婦が紅茶とスコーンを提供するカフェを併設しています。同社リノベーション事業部マネージャーの大井美樹さんは「住宅のことに興味がない人でも気軽に立ち寄ってほしいんです。移住を考えている人は、お店のご夫婦に様子を聞いてもらえれば参考になると思います」と話します。

同社のメイン商圏と重なる佐久市・軽井沢町・御代田町は、移住者が増えている長野県のなかでも特に人気のエリアです。同事業部でリノベーションアドバイザーを務める南澤俊弘さん(一級建築士・宅建士)と三宅康弘さん(宅建士)の2人は「移住者のニーズが買取再販事業の追い風になる」と期待します。「移住希望の人たちは住まいに対する考え方が柔軟で、中古を新築と同列で比較検討する傾向が顕著です」と2人は感想を語ります。

大井社長(前列・右)とリノベーション事業部の大井マネージャー(同・左)、島田さん(後列・左)、南澤さん(同・中央)、三宅さん。自社の事業を通じて地域課題の解決に貢献しながら、子育て世代に手の届く価格で良質な住まいを提供していく

いずれにしても同社では、確かなリノベーションの技術や地域の資源とも言える空き家や中古住宅を上手に活用しながら、地元の人、移住してくる人を問わずに、若い世代でも無理をせずに手の届く価格で良質な住まいを提供していく考えです。


文:新建ハウジング編集部


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