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地域のつむぎ手の家づくり| 地元の相談拠点“まちはぶ”を運営 「高性能な賃貸住宅」提案し、多様な暮らしを支える <vol.58/岡庭建設:東京都西東京市>

【連載について】“地域のつむぎ手の家づくり”って、なに?
家づくりをおこなう住宅会社には、全国一律で同じ住宅を建てる大規模な会社や、各地方でその土地の気候に合った住宅を建てる小規模な会社など、さまざまな種類のつくり手がいます。その中でも、その地域ならではの特色や、そこで暮らすおもしろい人々のことを知り尽くし、家をつくるだけでなく「人々をつなぎ、暮らしごと地域を豊かにする」取り組みもおこなう住宅会社がたくさん存在します。 この連載では、住宅業界のプロ向けメディアである新建ハウジングだからこそ知る「地域のつむぎ手」を担う住宅会社をピックアップ。地域での暮らしづくりの様子をそっと覗かせてもらい、風景写真とともにお届けします。


今回の<地域のつむぎ手>は・・・


岡庭建設(東京都西東京市)は今年、同市内の東伏見駅前に「おかにわ賃貸」を開設しました。テーマに『ひと・まち・くらし』を掲げ、地元の拠点となる“まちはぶ”として、賃貸事業を軸に住生活のあらゆる相談を受ける拠点として運営しています。
また、東京ゼロエミ住宅の「水準1」仕様(UA値0.7W/㎡K程度、一次エネルギー消費量30%以上削減)以上の高性能な賃貸住宅を提案しています。

おかにわ賃貸は、西武新宿線・東伏見駅のロータリー前にあります。同社では創業以来、初めて賃貸事業をメインとする店舗を構えたそうで、同事業部門の社員2人が常駐しています。

西武新宿線・東伏見駅のロータリー前で運営する「おかにわ賃貸」

この店舗は、以前は地場の不動産会社が入居していたテナントをリノベーションしました。延べ床面積は95㎡で、床は無垢材、棚などは大工が建具職人とコラボして製作しました。テーブルなども、執務室や接客ゾーンを含めて、造作で統一しています。

おかにわ賃貸の店舗内。床は無垢材、棚は大工と建具職人とコラボして製作した。テーブルは、執務室や接客ゾーンを含めて、造作で統一

同社専務の池田浩和さんは「生活者に地元の魅力ある街を発信し、資産価値を守りながら、住みたい街にしていきたい。地域工務店だからこそ、暮らしのあらゆる接点を通じて生活者と関わりながら、この街に住む価値を提供できるのです」と力を込めます。

左から:同社賃貸部門の蒲幸子さん、専務取締役の池田浩和さん、茅根信行さん

おかにわ賃貸の最大の特徴は、賃貸物件を借りたい顧客に、まず伝えるのが物件情報ではなく、「街のポテンシャル」というところです。
店舗に入ると左手には、東伏見駅を中心とした街の地図「oh! sampo map」があります。地元でデザイン事務所兼駄菓子屋を営む「ヤギサワベース」が、この地図をつくりました。インターネットでは探し出せないローカルなカフェや飲食店、穴場的な居酒屋、公園など約25カ所をマッピングし、おすすめコメントなども添えられています。

東伏見エリアのお店を紹介する「oh! sampo map」。地元民に愛されているカフェや公園などが地図上にマッピングされ、おすすめコメントなども表示している

一般的に賃貸住宅は、家賃や間取りなどの条件のみで生活拠点が決まるケースが多いとされます。池田さんは「自分らしい暮らしを実現するには、街の魅力を知ることこそが第一。そこをサポートすることが大切なんです」と想いを語ります。
街の魅力を知り、価値観の近い人同士が住めば、地元に定着し、そのエリアの人口が増加することも期待できます。こうした循環が続けば、「地域経済が活性化し、街も発展するはずです。もちろん、その先には、将来的に当社を頼りにしてくれる潜在的なお客様も増えていくことにつながると期待しています」(池田さん)。


電気代高騰の影響も

東伏見エリアを中心に貸し出しているのが、地元のアパートオーナーと連携し、同社が設計・施工する高性能賃貸「ROEMI(ロエミ)」です。木造で、東京ゼロエミ住宅の「水準1」仕様(UA値0.7W/㎡K以上、一次エネルギー消費量30%以上削減)、耐震等級3)を上回る性能をベースとしているそうです。

同社が地元のアパートオーナーと連携して展開する高性能賃貸住宅「ROEMI」

現在、東伏見、練馬、杉並といった近隣エリアに17棟あります。家賃は「同じエリアの相場価格よりも5000~8000円程度は高い」(池田さん)ということですが、入居率は80%を超えるとのこと。もちろん、来店者は最初から高性能賃貸を目的に訪れるわけではありませんが、物件を見学し、「夏は涼しく、冬は暖かい」住環境を体感すると、それが付加価値となって選択を後押しする要素になるそうです。特にこの1〜2年では電気代高騰の影響もあり、「断熱性能の高い賃貸に対する関心もじわりと増えている」と手ごたえを感じています。


進む賃貸住宅の高性能化

高性能賃貸の居住者だった夫婦が、契約満了で退居するにあたり、より高性能な住まいを求めて、岡庭建設で新築注文住宅を建てた事例もあるということです。同社では、そのほか高性能賃貸のほかにも、地元密着の賃貸物件を200室程度管理しており、アパート建築も、2021年は4棟、2022年は2棟とコンスタントに手がけています。

同社では、今後の賃貸住宅の市場変化に対応するための施策として、高性能化を推進しています。2022年6月に「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」が改正・公布されました。これを受け、同年11月に設置された国土交通省の「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度に関する検討会」で議論が行われてきましたが、今年3月には最終取りまとめが行われ、新制度が2024年度からスタートします。

池田さんは省エネ性能表示の運用を見据え、「省エネ性能の見える化によって、住環境に対する意識が高まり、賃貸住宅であったとしても、高性能化が求められるようになります。社会意識が確実に変わっていくはずです」とし、その影響で「性能値の低い賃貸は10年以内に淘汰されていくでしょう。市場変化に機敏に対応しつつ、生活者の多様な暮らしを支えるために今後も着々と準備を進めていきます」と語ります。


文:新建ハウジング編集部







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