急行と快速って、どっちが速いか分かりづらくないか?
「おい松尾」
「どうした五十嵐」
「急行と快速って、どっちが速いか分かりづらくないか?」
「同意しよう」
「だろう! 初見の地方民は混乱するぞ!」
「田舎殺しだな」
「しかも快速急行や特別快速まであるんだ。もはや都会民すら混乱待ったなし!」
「おい五十嵐」
「どうした松尾」
「不満を述べるだけではただのクレーマーだぞ。改善策はあるんだろうな? 電車の速さを分かりやすくする案が」
「もちろんだ」
「聞こう」
「俺の代案は、数値化だ」
「ほう」
「速さを5段階で評価するんだ。通知表のようにな」
「一番速い電車を5とするのか?」
「そうだ! 快速急行は5番、各駅停車は1番と呼称する! 分かりやすいだろう!」
「…そうすると、駅のアナウンスはこうなるぞ?」
『間もなく、5番線に1番がまいります』
「……」
『続いて2番線に4番がまいります。さらに3番線に5番が…』
「混乱待ったなし!!」
「だな。別案はないのか?」
「そうだな……人名にしよう! 電車に名前を付けるんだ!」
「例えば?」
「アナウンスにするとこうなる」
『2番線に停車中の電車は、東京行きのエミリーです』
「エミリー…」
『5番線に停車中の電車は、渋谷行きのカトリーナです』
「カトリーナ…」
「どうだ! これなら混乱しないだろう!」
「アメリカの台風みたいだな」
「確かに!」
「ちなみに知っているか? アメリカの台風が女性名になった由来を」
「知らないぞ! 教えてくれ!」
「気象学者が妻の名前を付けたのが始まりらしい」
「おお! ラブだな!」
「そうとは限らないぞ」
「違うのか?」
「台風のように家庭内を荒らす妻だったから、という理由もあり得る」
「皮肉か… 可能性はあるな」
「結果だけを見て動機を決めつけるのは誤りだ。それは先入観に基づいた推察だからな。経緯は当人に聞くべきだろう」
「もっともだ! 早合点していたな!」
「ああ。お互い気をつけよう。結果は動機を語らない」
「胸に刻んでおこう!」
「そうしよう」
「……」
「刻んだか?」
「刻んだ!」
「ならば話を戻そう。電車に人名を付ける案だが…」
「やめておこう! エミリーでは速いのか遅いのか分からない!」
「もっともだな」
「別案を考えさせてくれ!」
「いいだろう」
「……」
「……」
「松尾」
「なんだ」
「そもそも、急行や快速は必要なのか?」
「必要だろう」
「理由は?」
「目的地に早く着くための手段だからだ」
「そこだよ。なぜそんなに生き急ぐんだ?」
「生き急ぐ?」
「のんびり各駅停車じゃダメなのか? ゆっくり進む人生もありじゃないか?? JRはそう言ってるんじゃないか???」
「違うな」
「違うか」
「ただ、気づいたことがある」
「聞かせてくれ!」
「我々は、身勝手だ」
「…どういうことだ?」
「そもそも、急行や快速は利用者の要望で作られたものだろう?」
「おそらくな」
「つまり、鉄道会社はユーザーの求めに応じて電車の選択肢を増やしたんだ。にもかかわらず、増えたら増えたで分かりにくいと言っているんだぞ? 我々は」
「…身勝手だな」
「そうだ。初心を忘れている。改めて、鉄道会社に感謝すべきだ」
「そうだな! ありがとうJR!」
「ありがとう西武鉄道」
「ありがとう小田急電鉄!」
「その上でだ。引き続き改善策を考えよう。より良い乗車体験のために、いち利用者としてアイデアを…」
「いや、もうやめよう」
「…なぜだ?」
「この話題は飽きた! 別の話にしよう!」
「…身勝手だな」
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