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アフターコロナを考える②

COVID19により、人々の行動はどのように変化し、企業のビジネスのあり方はどのように変化していくのでしょうか。今回は今回感染症の影響を大きく受けている飲食業界について考えて行きたいと思います。

なお、給付金等の施策については5月6日現在の情報に基づいておりますので、正確な情報については政府等が公表している情報をご参照ください。

1.飲食業界の現状

「自粛と補償はセットなのか?」という記事でも紹介させて頂きましたが、飲食業という業態は、手元資金を多く有する企業は少ないことから、数カ月の業績の落ち込みが致命的になる体力のない企業も多く存在しています。

2020年版「中小企業白書」から飲食業に関連する部分を紹介させて頂きます。まず、下記のグラフは政府系金融機関や商工団体などに設置した「新型コロナウイルスに関する経営相談窓口」の利用状況を示したものです。相談内容のほとんどを占めるのが資金繰り関係であり、企業をこの危機下でどのように存続させていけばいいのかという内容が中心になっており、利用件数に占める業種の割合で最も多いのが飲食業となっています。

コメント 2020-05-06 201526

固定費と手元資産の割合を見ても宿泊業・飲食サービス業は多業種と比較し、会社規模に関わらず軒並み低いという統計結果も出ております。

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下記の表は、相談件数の多い各業種について、中小企業数と中小企業の付加価値額を見たものです。宿泊業,飲食サービス業は付加価値額も低く、中小企業の構成比が相対的に大きいことから、中小企業の数も多いことが分かります。

コメント 2020-05-06 201649

私たちの身近にある飲食業は、生きていくために必要な食を提供してくれるとともに、食の文化を豊かにし生活に彩を与えてくれますし、コミュニケーションの場としても、とても大切な場所です。そんな飲食業界ですが、感染症の影響を大きく受け一部の企業は存続の危機に追いやられています。

2.飲食業界に対する休業要請

それでは、飲食業界が今回のCOVID19の影響を受けてどのような要請を受けているのか、それに対してどのように対応しているのか、東京都の例でみて行きたいと思います。東京都では、飲食店は食事提供施設か遊興施設等なのかで要請内容に差異があります。

食事提供施設(通常の飲食店が該当)は、適切な感染防止対策の協力と営業時間短縮の協力が要請されています。営業時間の短縮については、夜(20時以降から翌朝5時まで)の営業を止め、朝5時から夜8時までの間の営業を要請し、さらに酒類の提供は夜7時までとすることを要請しています(宅配・テークアウトを除く)。この営業時間の短縮は、いわゆる夜の街クラスターと呼ばれる接待の場での集団感染の防止対策の一環かと思いますが、飲食店の中でも特に居酒屋を中心とした夜に営業していたお店は大きなダメージを受けることになります。

次に遊興施設等に該当する店舗(スナック、バー、ナイトクラブなど)については、施設の使用停止及び催物の開催の停止を要請(=休業要請)の対象になっています。先述の夜の街クラスター対策だと思われますが、こちらは完全な休業の要請であるため通常の居酒屋よりも更にダメージは大きいはずです。

休業要請と補償はセットで行うべきではありますが、補償のスピードが遅い、申請書類が解りにくい、減収要件などがあるため自分の会社が対象にならない等課題は山積しています。次に現在、そして将来飲食業はどのように生き抜いていけばいいのかを考えて行きたいと思います。


3.飲食業界の今後の展望

・現状の危機を乗り切るために

まず、現状の売上減少及びそれに伴う資金繰りの悪化に対応するためには、下記のような方法を検討しましょう。

①借りる
現在公的融資はかなり積極的に資金を融資してくれています。日本政策金融公庫や商工中金・日本政策投資銀行、普段からお世話になっているメインバンク、緊急小口資金・総合支援資金など調達先は多くありますので、利息や必要な融資額等を検討したうえでご相談ください。

②受取る
持続化給付金、雇用調整助成金、小学校等休校対応助成金、その他各自治体が実施している協力金等があります。持続化給付金や協力金等は比較的スピーディに支給されるかもしれませんが、助成金は基本的に2カ月以上先になりますのでその点注意が必要です。

持続化給付金はこちらの記事を参照してください。

③稼ぐ
今までテイクアウト、デリバリーをやっていなかったのであればこれを機会に初めて見るのも手です。もちろんお店で食べて頂いた方が客単価はあがるとは思いますが、稼ぐ手段を複数持つことで、少しでも売り上げを立てることができますし、感染リスクを気にしてお店で食べたくない層を取り込むこともできます。デリバリーも自社で配達する方法ももちろんありますが、出前館、楽天デリバリー、Ubar Eatsなどのデリバリー代行サービスを利用することもできます。また自社の商品をインターネットを通じて販売するという手段もあります。こちらは少しハードルが高いですが、長期的に考えると検討しておくべきでしょう。

④支払いを遅らせる、減額する
法人税、消費税、固定資産税などの支払いは、令和2年2月から納期限までの任意の期間(1ヵ月以上)において、収入が前年同期に比べ約20%以上減少し、一時の納税が困難と認められる場合には、納税が1年間猶予されますし、厚生年金保険料等の納付も令和2年2月以降の任意の期間(1ヵ月以上)において、事業等に係る収入が前年同期に比べて概ね20%以上の減少があった事業主は猶予されます。
また、中小事業者等の償却資産と事業用家屋の令和3年度分の固定資産税と都市計画税は、令和2年2月~10月の任意の3ヵ月間の売上高が、前年同期間と比べ、50%以上減少した場合はゼロに、30%以上50%未満減少した場合は1/2になります。その他、個別に交渉することで取引業者等に支払いを待ってもらえる可能性もあります。

⑤その他
現金決済にして資金の回転を早くする、食事券などを発券するなどして将来の売上を前倒しで得る、コスト削減を行う(家賃交渉、原価低減など)、在庫を削減する、不要な資産を売却するなどの方法が考えられます。また、最近話題のクラウドファンディングといった資金調達方法もあります。


②今後感染症と付き合っていくために

今後数年は飲食業界は厳しい時期が続くかもしれません。しかし、食事という行為は人が生きていくために必要なものであり、また、飲食店は人々が交流するコミュニティの場でもあります。私たちの生活になくてなならない存在ですので、様々な工夫により、この危機を乗り越えて欲しいと思います。

上記で紹介したような資金繰り改善策に加え、今後は飛沫をいかに防止するかといった感染症対策の観点も重要です。席の仕切や空調などを利用して飛沫を防止する、手洗いスペースを必ず設ける、アルコール除菌を設置する、換気を徹底する等の対策がどこの飲食店にも求められるかも知れません。

また、テイクアウト、デリバリー、ネット通販と言った収益の多角化も重要です。本業からあまりに離れすぎると失敗するリスクが高いですが、ある程度シナジーが見込まれるものは取り組んでみてはいかがでしょうか。

サブスクリプションモデルを確立する戦略も収益を安定化するためには有用です。従来からポイントカードやDMなどでお客様に来店を促すキャンペーンはあったと思いますが、それと一歩進めて会員制して会費をとるといったイメージです。例えば「野郎ラーメン」がやっていたような定額で食べられる、そんなサービスです。サブスクリプションモデルは、それだけで本が1冊かけますので、割愛しますが興味のある方はぜひ他の事例も調べてみてください。

4.まとめ

飲食業は資金が潤沢な業界ではないため、休業要請・自粛により資金繰りに深刻な影響が出る企業が多く存在します。

飲食店は人々が交流する場でもあることから、緊急事態宣言が解除されたとしても影響はかなり長引くことが予想されます。

国は持続化給付金を支給する・雇用調整助成金を拡充する等の対策を行っており、各自治体も協力金等の名目で支援を行っていますが、いつまで影響が続くか解らず、また、各支援も支給に時間を要することから多くの企業が廃業を選択するかもしれません。

使えるものは全部使ってこの危機を乗り越えるとともに、感染症により行動変容が起きた新しい世界で生き抜いていくためにできる工夫は全部していくことが求められると思います。

美味しい食事と楽しい思い出の場を私たちに提供してくれる飲食店が、一つでも多くこの危機を乗り越え、また笑顔で会える日を楽しみにしています。


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