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【映画】"声"と"聲"の姿を真正面から描いた傑作映画『聲の形』

“君に、生きるのを手伝ってほしいー。”

小学6年生の石田将也は、転校してきた聴覚障害を持つ西宮硝子に好奇心を持ち、いじめを行ってしまう。それが原因でやがて硝子は転校してしまい、一転して将也は周囲からいじめられる状態に陥る。
その後、将也は自分のした行為への罰として誰とも接さない孤独な学生生活を選び、人に心を開く・人と目を合わす事さえ止め、暗く陰鬱とした日々を過ごしていた。希望など無く、ただ過去の贖罪のために生きていた将也は、やがて、硝子と5年ぶりに再会するが...。

これは傑作。DVDパッケージの画の感じからはとても想像できないほど濃密で深い物語。

いきなり自分の話をすると、この主人公はまるでかつての自分だなと感じた。いじめでも犯罪でもないけれど、自分が他者に対して起こした行為の罪悪感に苛まれ続け、人と関わる・人を信じることをやめて、孤独を受け入れて、0.0001%くらいだけ自殺という手段も考えて。そんな負のループから抜け出してみたいと、ちょっとでも希望を抱いた瞬間、自分でそれを押し潰して、そうやって無理矢理自分自身を赦してるような、自己満足に近い感覚を抱いて、それに気付いてまた自己嫌悪に陥って。ある意味生きていないのと一緒。“無”に命があるだけ。

そんなワケあり主人公にだいぶ感情移入しながら鑑賞していたが、その他の登場人物もキャラデザが突飛な割には良くも悪くもだいぶ人間らしく、感情移入がしやすかった。

特に、やってたことは最低の行為とはいえ、小学生の頃好きだった男の子と一緒になって人をいじめて楽しんでて、それが久々に再会して、好きだったいじめっ子といじめられっ子が良い感じの仲になっていて、自分は拒絶されて、思わずキツい言葉を投げかけてしまう植野の感情はよく分かる。やってることはホントに子供っぽいんだけども。

ちなみに、いじめに積極的に関わっていない事を良いことに、自分の立場が危うくなると責任転嫁ばかりして、涙しながら意中の異性に密着して同情を誘う、川井さんみたいな人はどうしても好きになれなくて、結局最終的にあなただけ人として成長してなくね?とモヤモヤしてしまった。でも確かに現実にもいるんだよねこういう人。
そして彼女の意中の異性のイケメン・真柴は意味深な雰囲気を醸し出す割に、そもそも主人公らの過去に関わってこないし、感情移入うんぬん以前に内面描写が薄い...。(原作で彼にまつわる、いじめに関するエピソードがあるらしいが、映画ではほぼカット)

そして、あえて不謹慎な言い方をするが、“聴覚障害者”という人物をヒロインに据えながらも、彼女はむしろ人の発する声を積極的に聞こうとしていて、人の声を聞かないようにしてたのは“健常者”である主人公だったという、この実に皮肉めいた造りには感服。

その上、全く“逃げない”作品。人間誰しも抱く“悪意なき悪意”に対し、上っ面の綺麗事やそれっぽい正論など全く並べずに、真っ正面から全てを描き切った、このシナリオに大拍手。ホントに凄い。

欠点をあげるなら、キャラデザが突飛すぎるのと、唐突なフラッシュバックの挿入などで困惑させがちな編集。そして、酷いいじめをした経験を持つ主人公の赦しの物語というのは...正直少々受け入れ難いものがあった。
それにヒロインはなぜ、あれほど酷い事をした男の子にそんなに善意を振り撒き、好意を持ったのか。病人として接する周りの人達の過剰な気遣いに疲れた中、唯一普通として接してくれたから?
いやいや、そうだとしても酷すぎるぞあいつ。人と繋がる手段である大切なノートを水の中に捨てたり、『気持ち悪い』と罵倒するに留まらず砂を顔面に投げつけたり、挙げ句の果てには善意を踏みにじって殴りかかる、ですか...。さすがに小学生時代の主人公は救いようが無さすぎて閉口。ちょっかいを出すにも程があるだろ。妙な正義感を持つ担任の先生や周りの大人は一体何をしていた?

そして何より、それだけの悪行が赦されるのには、結局は“死”が絡まないとっていう展開には少々違和感は感じたかな。

...という、いつもなら大幅に減点対象となるはずのいくつかのマイナスポイントも、不思議と受け入れられる程の重厚で多大なる説得力を持った内容には違いない。

それに本来、【許すか許さないか】ってことは、当事者が決めることなんだよね。当事者の親でも妹でもない、結局は本人がどう感じているのかが、一番大事なこと。硝子から発せられる音声としての“聲”と、彼女の本当の“声”に、周りは気付けていたんだろうか。

でも人の本当の声を聞くって、簡単なようで実はこれ以上無いほど難しいこと。
この世にはたくさんの“声”があるけど、“本当の声”を聞くのは怖くて苦しい事で、だから人間は本当の声を聞くのを止めがち。だけど本当の声を聞かなければ、人は人を理解できず、寂しい世の中になってしまう。

そんな強烈なメッセージを多分に含みながらも、優しさに満ちた余韻の残るエンディングは完璧。本当に、本当に苦しんだね主人公。俺もいつか、周りの人達の『×』が取れるようになりたいと、この映画を見て力強く感じた。

アニメだからとバカにせず、ぜひ一度は皆に見てほしいヒューマンドラマの傑作。

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