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生まれなければよかった

できることならキャベツからでも生まれたかった。ここ数日、親からダメージを受けることが続いている。

先日、少し早いが母にプレゼントを渡した。以前から欲しがっていたが売場が遠いためなかなか買いに行けなかったもので、悩んでいたので売場にあった種類全部をセットにして包装してもらったものだ。そして母にそれを渡したとき、母は「えっ こんな安いものだけ?」と言った。たしかに値が張るものではないが、以前から欲しがっていたし、もう少し喜ばれると思っていた。母の言葉に絶句しながら、そういえばこういう人だったな、と思い出した。

母は人からもらったものにケチをつけたり文句を言ったりすることをあまり躊躇しない人で、何故それを忘れていたかと言うと、ケチをつけられるのが面倒で久しく母への贈り物を避けていたからだ。そしてたまにいい子どもをしようとした結果、結局そういう事態になり、母のために時間や金銭や思いやりを浪費してしまったことを非常に後悔している。

もうひとつのダメージは父からで、私はこの男と半絶縁状態でいる。絶縁を決めた理由は、この男が以前、自らや悪友の学生時代の武勇伝を私に聞かせた際に笑いながら「悪友が女性を妊娠させ、流産させるために冷水を張った浴槽へ放り込んだ」話をしたからだ。「酷い話だ」と苦言を呈していたならまだしも、笑いながら話すその顔を見て唖然とするしかなかった。そんな人でなしな所業をよくも私に聞かせやがって、このゲス野郎。と未だに思い出し怒りが湧いてくる。聞かされた私よりも気がかりなのは被害女性のことで、そんなクソ野郎どもと出会ったばかりに人生を滅茶苦茶にされて本当に気の毒だと思う。せめて今は幸せでいてほしい。

この男が先日荷物を渡しに来たので渋々会っていくらか言葉を交わした別れ際、ゲス野郎は私に「旅行ばっか行ってないで恋人でもつくれ」と言った。ちなみに旅行ばっか行っている、という部分がまず事実と異なるのだが、何故私がせっかく両想いになれた大切な誰かをお前などに紹介しなければならないのか? という疑問はさておき、私の返事は「要らないから大丈夫」だ。そもそもこういう風に人を物として扱うやり取りは嫌いなのだが、この男と同じレベルに落ちてもそれだけは言いたかった。番っていないと一人前と見なされないなら、それはそういう社会が悪いのであって私の知ったことじゃない。あの男のような人間の血が入っているというだけで私に「結婚」や「子どもを持つ」を忌避させるのには充分すぎる理由だ。私は私のような不幸な人間を増やさないために、絶対に、ゲス野郎の意は汲まない。そしてもう二度と会いたくない、と強く思う。次に会うときは葬式だといい。

私よりつらい思いをしてきた人はたくさんいるだろうが、私にはこれが、ダメージを受けるほどのことなのをご了承願いたい。こんな両親の元に生まれなければこんな思いはしなかったのに。

以前きょうだいについて「末っ子」だと書いたが、本当は私の下にもうひとりいたそうだ。残念ながら生まれては来なかったというその子のことを、時折考えることがある。その子が生まれていた方が社会に有益だったのではないか、その子の方がたくさんの人に愛されたのではないか、その子が生まれていたら何か違ったのだろうか、生まれなかったその子の方が幸福だったのではないか。

そういう詮無いことを時折考える。


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