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週末読書メモ134. 『ジャン・クリストフ(2)』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

天才も人。


前回に続き、仏文豪ロマン・ロランの『ジャン・クリストフ』の第2巻。

幼少期から青年期までを描いた怒涛の第1巻から続き、第2巻では青年期ならではの葛藤や闘いが描かれています。


自由!……他人にも自分自身にもとらわれない自由!一年この方彼をからめていた情熱の網が、にわかに断ち切れたのであった。
(中略)自分のまわりを、自分のうちを、見回した。もはや何かに彼をつないでいるものはなかった。彼はただ一人であった。……ただ一人!ただ一人であることは、自分が自分のものであることは、いかにうれしいことだろう。

周りからの外圧や苦難が多かった幼少期から抜け出し、自由を手にいれるところから物語は続きます。

しかし、(悲しいかな)自由な環境の中で、人より優れた能力を抱いていた故に、批評家気質な人間へと性格が屈折していきます。歴史上の偉人、そして、周囲の人々を酷評し、素直に接することができず、主人公のクリストフは次第に孤立していきます。

人間は多面的な存在であり、どんな人物でも良い面・悪い面ある中で、惜しげもなく、ありありと描いたロマン・ロラン。天才であっても(天才だからこそ尚更)、人間的な側面もあるんだなあと気付かせてくれます。


その上で、屈折した主人公を支えたものの1つは、音楽の情熱であり、芸術への探究心です。

真の音楽家にとっては、音楽は自分が呼吸する空気であり、自分を包む空である。彼の魂自身がすでに音楽である。彼の魂が愛し憎み苦しみ希うところのもの、そのすべてが音楽である。

芸術というものは、いかなる賤しい風来人にも渡される賤しい餌ではない。確かに一つの享楽であり、最も人を陶酔させる享楽ではある。しかしながら、激しい闘いによってのみ得られる享楽であり、力の勝利を冠する月桂樹である。芸術とは、征服せられたる人生なのだ。

人生においては、苦難の時期が続くものの、音楽への情熱は消えることなく突き進む中で、その深みも増していきます。


また、第2巻の後半にして、もう1つクリストフを支えたものが友情でした。

クリストフは家へ帰りかけた。群衆の中に交じって、パリーの街路を歩いていった。何にも見え聞こえもしなかった。周囲のすべてのものにたいして、彼の感覚は閉ざされていた。世界の他の部分から山脈で隔てられている、一つの湖水に似ていた。なんらの風も音も動揺もない。平穏だ。彼はくり返していた。
「俺には一人の友がある。」

尖った人物であった故に、長らく心から信頼し切れる人に出会えなかった青年期。その後半にして、心底向き合える無二の友に出会うことになります。

これも示唆が多く。何にせよ、無二の友という存在は言い難いものであり、それはたとえ、今目の前にいなくても、そして天才のような人物であっても、か…


どちらかといえば、重く辛い世界の中で進んだ天才の上半期。

残り2巻、折り返し!


【本の抜粋】
自由!……他人にも自分自身にもとらわれない自由!一年この方彼をからめていた情熱の網が、にわかに断ち切れたのであった。
(中略)自分のまわりを、自分のうちを、見回した。もはや何かに彼をつないでいるものはなかった。彼はただ一人であった。……ただ一人!ただ一人であることは、自分が自分のものであることは、いかにうれしいことだろう。

観念はたいていいつも、生地のままで現れてきた。それを母岩から分離させることに骨折らなければならなかった。また観念はいつも、踊り立ちながらなんらの連絡もなく現れてきた。それをたがいに連絡させるためには、慎重な理知と冷静な意志との一要素を加味して、新しい一体に鍛え上げなければならなかった。

「ドイツ人の特徴は服従である。」
(中略)「彼らは勇敢に服従します。世に最も哲学的でない事柄、すなわち力にたいする尊敬や、この尊敬を変じて賛美とならしむる恐怖の感動など、それを説明するために、彼らは哲学的推論を用います。」

「もし私が、自分のなるべきものになろうとする、あるいはなれなかったら自分にたいする恥と嫌悪のうちに死のうとする、この残忍な力に縛られていなかったら、愛するあなたがいかに幸福ならしむることができることでしょう!けれどまず、私を生き活動し苦しましてください。そしたら私はいっそうの愛をもっておそばにもどって来るでしょう。どんなにか私は、愛し、愛し、愛することだけをしたいんです!……」

真の音楽家にとっては、音楽は自分が呼吸する空気であり、自分を包む空である。彼の魂自身がすでに音楽である。彼の魂が愛し憎み苦しみ希うところのもの、そのすべてが音楽である。

芸術というものは、いかなる賤しい風来人にも渡される賤しい餌ではない。確かに一つの享楽であり、最も人を陶酔させる享楽ではある。しかしながら、激しい闘いによってのみ得られる享楽であり、力の勝利を冠する月桂樹である。芸術とは、征服せられたる人生なのだ。

クリストフは家へ帰りかけた。群衆の中に交じって、パリーの街路を歩いていった。何にも見え聞こえもしなかった。周囲のすべてのものにたいして、彼の感覚は閉ざされていた。世界の他の部分から山脈で隔てられている、一つの湖水に似ていた。なんらの風も音も動揺もない。平穏だ。彼はくり返していた。
「俺には一人の友がある。」

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