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週末読書メモ31. 『ワイズカンパニー 知識創造から知識実践への新しいモデル』

(北海道十勝の農家6代目による週次の読書メモ)

経営学の世界的名著『知識創造企業』から四半世紀、待望の続編が本作『ワイズカンパニー』。日本人で数少ない世界的な経営学者(野中郁次郎さん)の知見・思考を垣間見れる一冊でした。


本書は、2部より構成されています。

知識実践とは何かを、SECIモデルの再考から、更なる知識創造・実践モデルが記された第一部。イノベーションを起こし続ける企業の源泉となる、実践知を備えた「ワイズリーダー」の6つの特徴が記された第二部。

ともに、筆者の知見を総動員した内容であり、重厚で示唆に溢れています。

(※参考1:SECIモデル)

(※参考2:ワイズリーダーの6つの特徴)

・何が善かを判断する
・本質をつかむ
・「場」を創出する
・本質を伝える
・政治力を行使する
・社員の実践知を育む

しかしながら、本書の最大の魅力は、筆者の知見の幅、そして、思考アプローチを垣間見れることだと感じます。


"知見の幅"について印象深かったのは、筆者が知識とは何かを探究する際、拠り所としたのが、哲学、心理学、神経科学、社会科学であること。

なるほどなあ。知識実践・経営学も、人間による活動である以上、こんな分野まで探究の幅を広げると…


また、"思考アプローチ"について印象深かったのは、大きく二点。具体的な人単位で探究すること、そして、歴史から未来を構想することです。

前者に関しては、野中さんが企業の経営を研究する際、企業がどう動いたかではなく、ある人がどう動いたかを執拗にまで探っています(実際に、本書の中で登場した人物は、30~40人を越えるほどに)。

再現性を作るためには、どのようなプロセスがあったかが重要であり、突き詰めると当事者の思考・行動に行き着くと。その調査は大変な労力がかかることであり、それを手を抜かず行うことが、野中さんの凄みだと感じます。

そして、歴史から未来を構想することに関しては、下の引用部分にグッときました。

ゼロから一へ進むには、創造性と想像力が求められる。
(中略)「ゼロから一」では、歴史に触れることがイノベーションの促進につながる。第7章で論じたように、歴史的構想力を働かせることは、未来に「なしうること」を思い描くのに役に立つ。現在の時点から、歴史的な出来事を振り返って、過去を解釈し、再構築することで、可能な未来を築けるようになる。
前にも述べたように、歴史を知れば、「なぜ」と「いかに」がわかる。歴史には過去と現在の因果関係と、「どのようにそれは起こったか」が示されているからである。

本当にそう。自分は筆者には遠く及ばないけれど、歴史を学ぶことによって、紐解ける現実・描ける未来は、間違いなくあると感じます。

野中さんは『失敗の本質』から始まり、歴史と組織・リーダーシップを紐付けた名著も多数書かれています。

野中さんが他の経営学者の方々と一線を画しているのは、経営学の幅に囚われない高く広いマクロの視点、(そうかと思えば)人単位で追求するミクロの視点、その上で、歴史の流れを見極める大局観があるのだろうなあ(もちろん、これだけでは無いないけれど)。

あ、、、これは、世の中で言われる「鳥の目、虫の目、魚の目」と一致する…!?

(余談だけれど、今は、コウモリの目もあるんだ笑)


「鳥の目、虫の目、魚の目」の3つの視点の最高水準が、野中さんが行っているレベルなんだろうな…

直接会うのは難しくても、本を通じて、自分とは遥かに先の地点に達している人に触られるのは、本当に有難いです。

その地点は、随分と高く遠くにあるけれど、知ることができれば、きっと近づいていくことが出来るはず。1歩づつ行こう。


【本の抜粋】
情報と違って、知識には「信念」や「積極的な関与(コミットメント)」が深くかかわっている。
知識は当人の価値観や、倫理観や、道徳観によって形作られるものだ。また情報と違って、知識は「行動」とも切り離せない。知識には必ず、何らかの用途や目的がある(例えば、イノベーションの材料にするなど)。さらに知識には、データや情報と違い、常に「意味」が伴う。文脈のない知識はないし、他者やものとの関係を持たない知識もない。

フロネシス(実践知、賢慮)とは「人間にとってよいことか、悪いことかに基づいて行動できる、真に分別の備わった状態」とされる。
(中略)エピステーメーは事実に関する知識であり、普遍的な原則に基づくとともに、既存の知識に根差している。テクネーは「ものを生み出す」知識、あるいは別の言い方をするなら、自然には生じないものを生じさせようとする知識である。
エピテーメーが「なぜを知る」知識、テクネーは「いかにを知る」知識だとすれば、フロネシスは「何をなすべきかを知る」知識といえる。フロネシスでは具体的な時と場合、社会にとってよいことや正しいことが考慮される。

成功すると、惰性に流されやすくなる。そうならないための唯一の方法は変化を強制することだと、ウォルトンは考えていた。
「あるやり方を取り入れ、それが最善の方法だと強く信じると、いつもその方法ではなくてはならないというこだわりが生じやすくなる。だから私は、絶えざる変化がウォルマートの文化の核であり続けるようにすることを、自分の個人的な使命にしている。会社が成長を続ける中で、私は常に変化を強いてきた。ときにそれは変化のための変化であることもあった。実際、
ウォルマートの企業文化の最大の強みは、いつでもすべてを捨てて、急に方向転換できることではないかと、私は思っている」

絶え間ない変化と断絶にさらされている今の世界でリーダーに求められるのは、これまで何度も述べてきたように、すべてに文脈があることをふまえて賢明な判断を下すこと、すべてが変化することをふまえて物事を決定すること、すべての成否がタイミングに左右されることをふまえて行動を起こすことである。

情報から知識へ、知識から知恵へと考えを進化させてきた野中は、人間的なリーダーシップの必要性をますます強く訴えてる。それはよりよい社会を築くために人間の独創的な能力を役立てるリーダーシップである。『ビジネス界にもっと人間中心の経営という発想や実践が求められる時代だ』と野中は指摘する

ゼロから一へ進むには、創造性と想像力が求められる。
(中略)「ゼロから一」では、歴史に触れることがイノベーションの促進につながる。第7章で論じたように、歴史的構想力を働かせることは、未来に「なしうること」を思い描くのに役に立つ。現在の時点から、歴史的な出来事を振り返って、過去を解釈し、再構築することで、可能な未来を築けるようになる。
前にも述べたように、歴史を知れば、「なぜ」と「いかに」がわかる。歴史には過去と現在の因果関係と、「どのようにそれは起こったか」が示されているからである。

生き方としての経営では、自社が何を象徴するか、どういう世界に生きたいかと思うか、そのような世界をどのように実現するか、どういう方向に進むか、どういう未来を築きたいか、どういうレガシーを残したいか、どのように社会に貢献できるかということが考慮される。よりよい未来を実現できるのは、自分たちにどういう使命が与えられているかを理解し、ひたすら正しく生きようとし、終わりある一生の中で常に自らを磨き続けるときである。

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