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【ショートショート】運命の一投

「LOW TON!惜しい!チャレンジ失敗です!被告人No.19864は死刑になります!」

無慈悲なアナウンスが聞こえてくる。ああ、いよいよ俺の番が来てしまった。

「皆さん、お待たせしました!被告人No.19865の入場です!」

二人の黒服に連れられ、指定の位置につく。

大きく動いてはいけない。白線を超えると無条件で失格になる。そんなことで人生を棒に振った日には悔やんでも悔やみきれない。

俺は何度も白線を踏んでは退がり、念入りに立ち位置を確認した。

「被告人、準備はいいですか」

そんなものできているはずがなかった。

怯える俺のことなどつゆ知らず弁護人がGOサインを出す。

さっきの黒服に三本の矢を渡される。普通の矢よりどこか少し重たい気がした。

「それでは、運命の1ターンです。スタート!」

裁判官の叩くガベルの音が、まるでゴングのように鳴り響く。

手は震えている。このターンが全てを決めるのだから当然と言えば当然だった。狙うはもちろん20トリプルのハットトリックである。

俺は狙いを定めて慎重に1投目を投げた。ギュンギュンギュン。けたたましい音がする。やった。20のトリプルだ。今日は調子がいいぞ。

続けて2投目を投げる。まずい、ブレた。ギュン。矢は少し外れたが、何とかブルを貫いた。

怪我の功名だ。これで110点。あと40点でいい。俺は何としてもHIGH TONはもぎ取らねばならない。

精神を統一させ、構える。落ち着け。ブルでいいんだ。気を衒うな。慎重に、慎重にいけ。いまだ!

矢はいい弾道を描き、真ん中に突き刺さった。やった!これで助かるぞ!その時だった。

「LOW TON!いやー、惜しい!非常に惜しい!矢はわずかにブルをそれ、下の3点に当たりました。」

まさか。そんなはずはない。

「そんなはずないだろ!どうみてもブルじゃないか!3点なわけない!」

「チャレンジということでよろしいですか?」

「あたりまえだ!」

「分かりました!それでは、チャレンジです!」

スクリーンいっぱいにスローモーションの矢が映る。俺の矢は真っ直ぐブルに向かっていた。

ほらみろ、どう考えても誤審じゃないか。

その時、一瞬、映像が乱れた。

次に映し出された映像では、矢先がわずかにブルを逸れ、その下の漆黒を貫いていた。

「何とチャレンジ失敗です!これにて被告人の点数は113点。LOW TONになります!」

嘘だろ。俺の矢は完璧な弧を描いて真ん中に突き刺さったんだ。そんなはず......。

司会の方を睨み付ける。司会は表情一つ変えず、薄気味悪い微笑を浮かべながら拍手をしていた。

「いやー、惜しい!非常に惜しい!HIGH TONならば無罪でした!被告人No.20、リスクを負いながらも健闘しましたが控訴棄却となります!死刑執行!」

黒服ががっちりと俺の肩を掴み、入場したのとは反対にある鉄扉へと連れていく。

クソっ、俺が何したって言うんだ。あんなこと、あんなことで......。

「ふざけるな!こんなこと許されない!人権侵害だ!おい、離せ!」

黒服はまるで人間ではないかと思うほど強い力で押さえつけてくる。俺はもう抗えなかった。

「皆さんお待たせしました!それでは、被告人No.19866の入場です!」

司会の言葉とともに、傍聴席の拍手喝采が聞こえてくる。まもなく命が潰える男のことを気にかけている人間なんて、もう一人もいなかった。

ダーツの横の鉄扉を黒服が開ける。これが閉まった瞬間、俺は暗闇で一人息絶えるのだ。

せめて最後の光を目に焼けつけようと目を見開く。司会の後ろについていたバニーガールが生気を失ったような顔で矢を片付けるのが見える。

20のトリプルから一本、ブルから一本を引き抜く。残すは俺の運命を決めた一投だけだった。彼女がそれに手をかけたその時、俺は目を疑った。

その矢はしっかりとブルを貫いていたのだ。

やっぱり誤審だったじゃないか。目の前が真っ暗になった。俺は精一杯叫んだ。

「聞いてくれ!イカサマだ!俺は無実だ!」

しかし、俺の声は誰の耳にも届かなかった。

扉はもう閉まっていた。

(*)

「いやー、それにしても『ダーツ法』は素晴らしいですね。」

「ええ、少し映像を差し替えるだけで死刑にできるんですから。こんなに簡単な粛清ありませんよ。すべて天の采配だと言えば皆黙りますからね。」

「はっはっは、そうですな。これで、王様も喜ばれることでしょう。」

「間違いない。今日で2万人ですよ。この調子で行けば、時間の問題でしょう。」

「ほう、そんな行きましたか。そろそろですかね。どれどれ。えー、『王様 馬鹿』っと。ああ、まだ3000件もヒットします。全員逮捕せねば。いやはや、言論統制も楽じゃありませんな。」

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