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【エッセー】野球の試合を見ない人ほど野球界の時事問題に詳しい皮肉

この二つの記事は「広陵高校の野球部が広島大会の決勝戦で広島商業に勝利して甲子園出場を決めた」ということを報じている。それも、情報元は、同じ「デイリースポーツ」である。

では、何が違うかというと、その中身だ。前者は、試合内容の詳細を報じているのに対して、後者は、高校野球に打ち込むにあたっての心構えとでも言うべき秘話を報じている。

僕が着目したのは、両者のコメント数の違いである。今現在(2024.07.29/0:45)で、前者は「63」なのに対して、後者は「183」だ。約3倍もの違いが見られる。

一読者である僕には、ビュー数は定かではないが、見える部分の数字のみで言わせてもらうと、「読者は『広島大会決勝戦の試合内容』よりも『広陵高校の野球部員のスマホ事情』の方が3倍興味を持っている」ということになる。

そこで僕が思い出したのが、2023年の夏の甲子園で優勝した「慶応高校」と、2024年の春のセンバツで優勝した「健大高崎高校」である。

今回、僕のモヤモヤを分かりやすく伝えるために、敢えて意図的に、情報を選んでリンクを貼っているため、”必ずしもこの論調のみで語られているわけではない”と断っておきたいのだが、リンク元の「NEWSポストセブン」のような論調で、甲子園優勝校を取り上げるメディアが多かったのも、また事実だ。

タイトルからも察することが出来るが、慶応高校の甲子園優勝は、高校球児の「脱丸刈り」が加速化するかのように扱われた。かと思えば、健大高崎高校の甲子園優勝は、高校球児の「丸刈り」が復権するかのように扱われた。

こういったメディアの対応は、プロ野球と高校野球をこよなく愛する僕からすれば、鈴木雅之ばりに、「違う違う♪そうじゃ♪そうじゃな~い~♪」と歌いたくなる。僕と似たモヤモヤを抱えた野球好きの方も、沢山おられることだろう。

だが、一般大衆の関心事は、どうやら、試合内容の詳細を報じることよりも、それ以外の部分、分かりやすい表現を借りると、慶応高校が提唱した「エンジョイ・ベースボール」のような、野球以外にも応用可能の部分の内容の話らしい。僕個人としては、認めたくはないのだが、数字が示しているのだから、認めざるを得ないのだろう。

その「エンジョイ・ベースボール」も、(無論、僕も含めて)言葉が独り歩きして、本来の意図とは異なる広まり方をしているため、警鐘を鳴らす記事も散見したことがあるのだが、悲しいかな、その手の情報は、あまり拡散されないのも、また事実なのだ。

エンジョイ・ベースボールは「楽しい野球」と誤解されるが、私が言いたいのは「より高いレベルで野球を楽しもう」ということ。そもそも、僕らのチームでは「笑顔で野球をやろう」なんて、実は一言も言ってない。正しくは「いい顔して野球やろう」。結果、笑顔になる子もいれば、引き締まった表情になる子もいる。なので、最近は「楽しもう」よりも、歯を食い縛ってつらい瞬間を「味わおう」というニュアンスのほうが近いとも感じている。

本来は、こういった、本人の口から発せられるインタビュー記事を元に、情報が拡散されて然るべきなのだが、(無論、僕も含めて)「二次情報」を元に理解を深めることよりも、自分の近場の人間と、「エンジョイ・ベースボール」という単語だけを引っ張り出してきて、「俺が思うエンジョイ・ベースボールとは」といった具合に、好き勝手に論じ合うのが、関の山である。

ゆえに、野球好きでも何でもない、言葉は悪いが、”トレンドに首を突っ込みたがる人”なんかが、「ねぇねぇ、エンジョイベースボールって言葉が流行ってるけど、それってつまり、〇〇ってこと?」などと、どこの誰から聞いたのかすら分からない「三次情報」を元に、自分勝手な理解をしている方も、結構居られる。

僕の経験則からすると、その分野(今回の例で言えば野球)に精通していない人であればあるほど、耳を疑うような曲解をしているケースが目立つ。少しでも野球に興味関心があれば、「慶応高校はエンジョイベースボールを掲げたから甲子園優勝出来た」「健大高崎高校は脱丸刈りブームへの対抗心が生まれたから甲子園優勝出来た」などと、単純化して語れる話ではないと気付くはずなのだが、得意顔でその論調を披露する人も、僕は見て来た。本人的には、それが一番しっくり来る理由なのかもしれない。理解しがたいが。

僕が思うに、「一次情報」よりも「二次情報」、「二次情報」よりも「三次情報」と、情報の種類が「一次情報」から遠ざかって行けばいくほど、話に尾ひれが付いて、「一次情報」を持っている本人の意図とはそぐわない広まり方をするケースが、凄く多い。「情報化社会」と呼ばれる現代だからこそ、そういう問題に悩まされている人は、沢山居られるのではないかしら。

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