見出し画像

【4001字】2024.06.21(金)|桜桃忌を肴に、くっちゃべる。(三)

<前回までのあらすじ>

「女性独白体」の太宰治の作品をピックアップしようということで、『燈籠』について触れていたら、実体験について書きたくなってきたUP主。「さき子」に負けず劣らずの熱量で、警察に厄介になった一部始終を書き記している最中。


パトカーが警察署に着く。僕は複数の警察官に連行される形で取調室に入って行った。想像していたよりも”流れ作業感”が強かったので、内心驚いた。もっと緊迫感であったり、あるいは、ドヤされたりするのかな、などと思っていたが、そうでもないらしい。不謹慎な例え方かもしれないけれど、「すいません、落とし物をしてしまって…。」と、拾得物管理センターの係員とかに、お尋ねしているみたいな感じだった。

「ちょっと荷物チェックさせてね~」

警察官の一人が手慣れた様子で僕の荷物をガサゴソする。僕はその様子をただボンヤリ眺めているだけ。別に見つかって困るものは何一つない。ただ、見つかって恥ずかしいもの、というのか、「ウッ」と感じるものは、チラホラあった。僕はそもそも彼女の家で寝泊まりする予定だったのだ。こんなことになるとはツユ(露)とも思わなかったので、すっかり忘れてしまっていた。替えの下着だとかをガサゴソされて思い出した。

「(いったい俺は何をやってるんだろうか…。)」

僕が物思いに耽っていたのが、警察官にとっては、訝しげな表情にうつったのだろうか、突然、「刃物とか隠し持ってることがあったりしてね~」とか「何も無いだろうけど、念のためね、ごめんね~」などと、朗らかな口調で、荷物をチェックし終えた後、ボディチェックまで行われた。これも初めての体験。僕はされるがままの状態。出来れば婦警さんにボディタッチしてもらいたかった。

僕が危険物を持ち込んでいないことが確認出来て、ようやく、取り調べが始まった。そう。ここからが本番である。ここで僕は上手く立ち回らなければ、おそらく”犯罪歴”が付くことになる。それだけは避けなければならない。具体的にどういう不都合が生じるのかは、正直、良く分かっていなかったし、今も良く分かっていないけれど、十中八九プラスに働くことはないのだから、僕の考えもあながち間違ってはいないはずだ。

取り調べを進める相手は、パトカーに乗車中の時に、僕が「前科はつくんですか?」と声をかけた人だった。やはりこの方が、今回の事件(と呼ぶんだろうなおそらく。事件性の有無は別として、事件ではあるんだよな。たぶん)の責任者的ポジションだった。僕の直感も捨てたもんじゃない。何となくの空気感で察知出来る。そういうのには自信がある。まぁ敏感過ぎて困ることの方が多いんだけど。

「・・・で、いったい、何があったのよ?」

警察官の声色からは、感情の色がほとんど見えなかった。犯罪行為を決め付けられている感じでもなければ、何かしら理由があってこういう事態になった、という同情の念も感じなかった。それが僕には少々以外だった。ドラマや映画に出て来る警察官は、前者か後者、どちらかに属するケースが多いと感じていたからだ。

言うならば、前者は”直情型”。後者は”人情型”。大体、直情型の警察官が、高圧的な態度でガンガン攻めて行って、黙秘を貫く被疑者の様子を見かねて、人情型の警察官が、諭すような口調で語り掛けて、徐々に心を開いて行って、供述を始める・・・。ざっくり言えば、そんなイメージがあったのだが、実際は違ったらしい。あくまで一例なので何とも言えないところはあるが。

「彼女に『ウチ来る?』と言われていたんですが・・・。」

僕は神妙な面持ちで呟く。”こういう時は取り乱しても良いことは何一つない”と、何度も念じていたので、おそらく、声色も、振る舞いも、平静を装うことは出来ていたと思う。

・・・というか、これは、今振り返っても、僕自身、驚きなのだけど、正直、”内心は心臓がバクバク”って感じでもないのだ。取り調べの間は、本当に、目上の人と話す時と同じ感じで、終始、やり取りを交わしていた気がする。これが僕は逆に怖い。「俺ってサイコパスの才能があるんじゃないか?」とすら思えてくる。ちなみに、その流れで「ダークエンパス」という用語を知ることも出来た。「俺ってダークエンパスかも・・・。」と思い煩ったのは、言うまでもない。真相は闇に包まれたまま・・・。ダークだけに。

・・・失礼、話を戻そう。


「何か記録は残ってる?LINEとか」
「ありますよ。お見せしましょうか?」
「うん。軽くでいいよ。見せられる範囲で」

警察官は敬語ではなくタメ語で僕とやり取りをしていた。これはイメージ通りだったので違和感はなかった。むしろ堅苦しい敬語を使われた方が調子が狂いそうだ。「取り調べの最中は被疑者とタメ語で話せ」と教育を受けていたりするのだろうか。そっちの方が相手は心を開きやすい、みたいな。”自己開示”の観点から考えると、割と合理的だとも思う。実際、話しやすい雰囲気を出してもくれていた。そういうところは見習いたい部分でもある。

僕は警察官に彼女と「LINE」のメッセージを送り合っている様子を見せた。その画面には「うさまる」が至る所に登場していたのだが、特に、恥ずかしいという感情は抱かなかった。普段だったら、まず間違いなく、恥ずかしいと思うはずだが。”今はそれどころではない”という思念が勝(まさ)るからだろうか。

また、「見せられる範囲で」と言われたのだけど、僕は、メッセージをピックアップして見せるのではなく、僕と警察官が同時に画面を眺められる場所にスマートフォンを置いて、メッセージのやり取りの様子を、ザーッとスクロールしていく方式で、見せることにした。そして、該当部分(「ウチ来る?」など)が出て来たら、「あっ、こことか、そんな感じですかね…。」などと言いながら、じっくりと見てもらうことにした。直感的に、このやり方が一番、クリーンな感じがしたからだ。

「結構やり取りしてるんだなぁ・・・。」

警察官は少々驚いたような表情を浮かべていた。初めて顔色と声色が変化した気がする。「何かしら事情はあるんだろうとは思っていたが、ちょっと想像した以上に、密に連絡を取り合っているじゃないか…。」と言いたげなリアクションに僕には思われた。と同時に、”この機に乗じて一気に攻め込むべきだ!”と考えた。

「そうなんですよね・・・。」
「僕自身、正直、事態が飲み込めていなくて・・・。」

僕は再び神妙な面持ちを浮かべる。この時、「なんで俺がこんな目に遭わないといけないんだ!」といったイライラをぶつけるのではなく、「なぜ彼女は今回のような行動を取ったのだろう…。」と思案するさまを意識していた。”被害者”としての振る舞いではなく”恋人”としての振る舞いを優先させた格好だ。無論、事態が飲み込めていないのは事実だったが、そこで”プッツン状態”になったらダメだと思って、懸命に理性を保たせていた。

・・・いや、違うか。ここも、”懸命に”って感じではなかった。自然とそうなっていた感じだった。”当事者”であるにもかかわらず”部外者”的な立ち回りになっていた。例えるならば、カップルの共通の知り合いみたいな。自分事なのに、他人事のような・・・。

それを裏付けるように、喜怒哀楽は、ほとんど出ていなかった。警察官から質問されたことに対して、事実ベース(LINEメッセージ)で、日頃、僕が接してきた彼女の特徴等も踏まえながら、補足説明を加えて、返答する。そういう時間が続いた。結構長かったと思う。それだけ、僕と彼女は、当時、頻繁に、且つ、長文で、やり取りし合っていたのだ。

「・・・うん、大体わかった。もういいよ」
「ちょっとそこに座って待っててくれるかな」

警察官は、僕を元の位置で待機させた後、取調室で僕のことを監視(?)していた、他の警察官2名を集めて、3人で、何やら話し合っていた。声は、ギリギリ聞こえるか聞こえないかぐらいだったので、ハッキリわからなかったけれども、どうやら、僕と彼女のLINEのやり取りについて、情報を共有しているようだった。

警察官2人が「へぇ…。」とか「そうですか…。」と、驚きの伴ったリアクションをしているのが聞き取れた。あの感じ、警察官に初めてLINEのやり取りを見せた時と、かなり似ていた。僕は「やっぱりココがポイントなんだ…。」と確信をもった。

警察官は、3人での意見交換を終えた後、再び、取調室の椅子に腰かけて、僕と対峙した状態へと戻って、こう語り掛けて来た。

「彼女さんの言い分とだいぶ食い違ってるんだよ」
「LINEも見せてもらったんだけど…。」
「メッセージ、消してたりするのかなぁ?」

僕に問い掛けるような言い方だったので、自分の分かる範囲で、且つ、明瞭に、返答を試みた。

「メッセージのことは、詳しくは分からないんですが、ブラックリストに入れて、翌日になったら戻す、という行為は、聞いたことがあります。僕に限らず、家族とのやり取りでも、”物理的に距離を置きたい”という気持ちが強くなったら、行なうみたいです。あくまでも一時的な措置のようですが…。」

僕の返答に対して、難しそうな表情を浮かべながら、警察官は相槌を打つ。

「あぁそう…。分かった…。ありがとう…。」

それだけポツリと呟いた後、他の警察官2人も、取調室の隅の方から、テーブル付近に集まって、「1対3」の状態になって、なんやら色々と、話し合うことになった。

この時の空気感は、先ほどまでの尋問チックな感じとは、かなり毛色が異なった。世間話・・・とまでは言わないけれども、なんというか、僕のことを「シロ」と判断したかのような感じで、接しているように思われた。別に「前科はつかなくなりましたか?」などと聞いていないのだけれども、多分そういうことなんだろう、と思われたのだ。

〜「四」へ続く〜

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?