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いまだから、僕たちは価値観を選べる_ フカイのまとめ<アンガーマネジメント編 #3/3>

〜すべきだ!」と、つい怒ってしまう。

<アンガーマネジメント編>では、「〜すべき!」は暴走のはじまりで、怒りが暴走するといい結果にならないという話をしています。

僕は、フランス革命の立役者でありながら恐怖政治をしいた ロベスピエール 、第2次世界大戦を引き起こした世紀の独裁者 ヒトラー も、強い怒りに突き動かされて時代を変え、多くの犠牲者を出し、悲惨な最期を迎えた「暴走タイプ」だと考えています。

では、怒りで暴走しないためにどうすればいいのでしょうか。

怒りがわく前の感情に気づき、自分を知る

歴史上の人物のお話をする前に、まず、怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングアンガーマネジメントの概念で説明します。

アンガーマネジメントでは、感情を「1次感情」と「2次感情」に分けて考えます。

「1次感情」は、直接的に何かに反応して、すぐに湧いてくる感情です(ポジティブ、ネガティブ含む)。喜び、不安、恐怖、心配、寂しさ、落胆などがあります。

その次にくる感情が「2次感情」と呼ばれ、怒りはその典型的なものです。つまり怒りの感情にはその前の「元にある感情」が存在します。はじめに「こうであってほしいのに……」と不安や悲しみが湧き起こり、不安が解消されないため「〜すべきなのにしてくれていない!」と怒りが発動するのです。怒りの前には1次感情があり、怒りが続くのは1次感情を見つめられていないからなのです。

『嫌われる勇気』で有名なアドラー心理学では、怒りは相手を支配する目的で発動するといわれています。1次感情を満たしてくれない相手を思うように行動させるために、怒るんです。

怒りの感情を抱いたら、「怒っている相手に自分は本当はどうしてもらいたくて、不安・悲しかったのだろうか?」と1次感情を突き止めるといいですよね。ロベスピエールもこれができていたら、恐怖政治なんかしなくてもよかった。話し合いで強固な信頼関係がより多くの人と築けていたかもしれませんね。

怒りを下手に論理で武装しない

「この人にこうしてほしい」が満たされないから怒ってしまう。怒りは、個人的な感情です。本来個人的な感情であるにもかかわらず、学説まで引っ張っり論理で武装して正当化することでおかしくなったのが、ヒトラーやロベスピエールだと思います。特に国家や企業が絡むと人は論理武装しようとします。

芸能人の不倫や政治家のふるまいに怒っている人たちも同じこと。もちろん不倫しないのが現代の一般的正義であり、なによりも配偶者との約束違反になるので、良いことではないでしょう。

しかし、その正義に悖(もと)ったら人間のクズ、芸能界から排斥されて当然みたいな風潮は行き過ぎだなと思います。繰り返しますが当事者同士の問題であって正義を振りかざして他人が介入する類いの話題じゃないでしょう。

こういう行き過ぎた正義、怒りを論理武装した正義は、程度の差こそあれロベスピエールの正義に重なるところを感じます。

ロベスピエールも言ってることは正論。ただしその制裁において度が過ぎているわけです。

正義の論理が裏にある人間はどこまでも残酷になれますし、義務感で攻撃性を持ちますからね。


絶対的な正義など存在しないことを認識して謙虚になる

ここまでの話を通じて、史実から抽出できる学びは、「正義は大切だけれども絶対ではない。だから正義も行きすぎてはバランスを崩す」ということだと思います。

歴史を勉強していると時代によって、そして地域によって正義が移り変わっていくことを感じます。だからといって現代に共通する正義に意味がない、とは全く思いませんが、絶対ではないのです。その謙虚さを持つことが攻撃性(倫理観の暴走)の歯止めになると思うのです。一部正義に悖(もと)る行動をしている人が全面的にクズかといえばそうとも言えません。

上述の芸能人の例では、「不倫をするような人はダメな人間だ」と判断する人がいますが、歴史を見ていると当時の正義に悖(もと)るダメな行動をする人間がダメだとは限りません。

分かりやすい例はルソーでしょう。

人の一面を自分の正義で勝手に判断しない

『社会契約論』の著者でフランスの代表的な哲学者ジャン=ジャック・ルソー。僕たちはいま彼のおかげで人権を持っているといっても過言ではない人物です。さぞ素晴らしい人格者で人間の鑑のような人物かといえばそうでもない一面も持っているんです。たとえば彼には5人子供がいましたが、全員孤児院に送ってしまいます。さらにそれだけではなく変態でした。彼はいわゆる露出狂だったんです。

街で露出したり、子供を孤児院送りにしたりしてる人物の思想が、のちのちの人権という概念にダイレクトにつながり、現代に多くの人間がその恩恵に浴している。

ルソーの一部の行動を見て彼をクズだということもできないし、ルソーの良い面だけを見て超立派な人間だということもできません。

人を、その人のある一面だけを見て判断することはできない一例だと思います。


現代は価値観を自由に選べる時代

しかも現代は、1人ひとりが自分の価値観を選んでいい時代。誰かの価値観にむりやり従わなくてもいいし、誰かにむりやり押しつけなくていい時代を生きています。

そんな時代に二元論で正義や悪を語ることって、僕はあまり意味がないと思っています。それに二元論で生きていると生きづらい。いろんな考え方や価値観をそれぞれが持つ時代で自分が二元論で生きてたらそりゃあ、あらゆる人と対立しちゃいます。疲れますよね。

もし相手を理解できなくてもそれはそれでOK。理解しなければいけない義務もないはずです。ただ、理解しようと努力する姿勢は必ず相手に伝わりますし、人間にとって理解してもらうことよりも理解しようとしてもらうことの方が大事な気がします。これは歴史からじゃなくて僕の経験から思うことです。

この多様な価値観が林立する時代に、二元論で世界を捉えて怒りをブーストさせるより、自分の怒りと向き合った上で寛容さを持ち価値観の違う他人と共存することは、現代人の特権。100年前の人には許されない生き方です。だからこそこの生き方を楽しんだ方が良いなと思います。


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■コテン 深井龍之介のレキシアルゴリズムって?
このnoteでは、歴史を学ぶことで得られる「遠さと近さで見る視点」であれこれを語っていきます。

3000年という長い時間軸で物事をとらえる視点は、猛スピードで変化している今の時代においてどんどん重要になってきます。何千年も長い時間軸で歴史を学ぶと、自分も含めた「今とここ」を、相対化して理解できるようになります。

世の中で起きている経済や社会ニュースとその流れから、ビジネスシーンでのコミュニケーションや組織づくり、日常で直面する悩みや課題まで、解決できると僕は信じています。


人間そのものを理解できたり、ストーリーとしての歴史のおもしろさを伝えたくて、歴史好きの男子3人で『COTEN RADIO(コテンラジオ)』も配信しています。PodcastYouTubeとあわせて聴いてもらえたらうれしいです。


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(おわり)
編集・構成協力/コルクラボギルド(大西なお、イラスト・いずいず

株式会社COTEN 代表取締役。人文学・歴史が好き。複数社のベンチャー・スタートアップの経営補佐をしながら、3,500年分の世界史情報を好きな形で取り出せるデータベースを設計中。