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対人ストレス対処のキホンのキ①~自我の壁から考える・あなたと私は違う人~

 古今東西尽きることのない対人関係の悩み。書店にもネットにも『対処法』はあふれているのに、今日も精神科には『人間関係がしんどい』と言ってやって来る人が後を絶ちません。
 今回は、人間関係に悩む全ての人に知っておいて欲しい、心の基本構造とストレスの関係について考えていきます。
 
 まず、『自我』という概念を押さえておく必要があります。言葉自体は普通に使われるのでなんとなく分かると思いますが、精神科で扱う場合はさらに踏み込んだ意味を持ちます。
 精神科の世界では、『自他の境界』『自我強度』という表現をよく使います。これは『自分と他人との間の壁』のことです。『自分と他人?違うに決まってるやん』と思うかもしれません。でも実際には、自分とそれ以外の区別は意外とはっきりしないのです。
 
 例えば、同情や共感という心の動きを考えると分かりやすいでしょう。熱が出て辛い経験をしたことがあれば、目の前の人がそのような状態だと、その苦しさを思い出していたたまれない。失恋経験があれば、友だちが失恋すると一緒に泣いたりする。
 『自我』が自分の中心にあり、他者との間には壁が存在する。その壁にはたくさんの穴が空いていて、そこから他者が入ったり出たりしている、という感じです。
 
 他者や外界から完全に切り離された自我というのは原理的に存在し得ません。自我が守られた上で適切に離れたり近づいたりしていれば他者との心地良い関係が築けます。
 
 一方、自我が弱い人は対人ストレスを抱え込みやすいと言えます。
 
 この自我が究極に崩壊した状態が統合失調症という精神病です。他人の考えやテレビ・インターネットなどの外界の刺激が暴力的に自分に入り込んで来る。患者はこの上ない恐怖と苦痛を味わうことになります。
 
 日常的な対人ストレスの話に戻します。上司でも姑でも同僚でもなんでもいいのですが、上司を例に上げましょう。
 ミスを指摘されて『こんなこともできないの?』と言われた場合。『次からは気を付けよう』と思って切り替えられればいいのですが、引きずり勝ちな人は家に帰って食事をしてもお風呂に入っても、ベッドに入っても、翌朝もまだ囚われています。こうなってしまうとミスを反省して次につなげるどころではありません。
 これはもはや上司が何かしているのではありません。その人が上司をいつまでも抱えているのです。
 
 上司と自分は別人格。現実的に上司や同僚が家に付いてきて来て上がり込んであれこれ言い続けることは絶対にないのです。
 脳内に侵入させっぱなしで家に連れて帰っているのは、実はほかならぬ自分自身。
 
 引っ張られがちな人はこのことを意識して、会社を出る前に頭の中からお引き取り願いましょう。刺さった言葉は丸めて捨てる。これが自我を守るということ。
 
 自我の弱い人がこれを習得するには練習が必要ですが、意識すればできるようになります。対人ストレスを感じやすい人は、ちょっと意識してみてください。
 何回かに分けてもう少し解説していきます🎵

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