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フリーランス法対応〜最低限何をすればいいか~

フリーランス法の施行により、これまで不満を感じても泣き寝入りをしていたフリーラン事業者が、発注者に対して法律に基づく請求を行うというケースが増加することが予想されます。

今後、「これまでは法的トラブルにならなかったことが、今後は法的トラブルに発展しかねない。」といえるでしょう。フリーランスと取引を行う事業者にとっては、こうしたリスクをしっかりと認識したうえで、自己の取引方法を見直してみることが重要となります。

そこで、本記事では、フリーランス法に対応するため最低限何をしたらいいのか、できるだけ簡潔にお話します。


1.フリーランス法の概要

フリーランス法は業務を受託するフリーランス事業者を保護する法律です。
保護されるのは、あくまで一般にフリーランスと呼ばれる一人事業者(個人及び代表者一人の法人で、従業員を使用しない者)です。

フリーランス法上、フリーランス事業者に業務を委託する際、以下のことが求められます。行政による立入検査や違反の場合の過料罰金等も定められています。

① 取引条件の明示
② 成果の受領から60日以内の報酬支払
③ 募集内容の的確な表示
④ ハラスメント防止体制の整備
⑤ 不公平な行為の禁止
⑥ 育児介護等に対する配慮
⑦ 中途解約時の事前予告及び理由開示

どこまでの措置が求められるかは、発注者(業務を委託する事業者)自身の規模及び取引期間により異なります。具体的には次のとおりです。

受注者の規模及び契約期間と義務の内容対応関係

2.積極的にしなければならない事項

(1)取引条件の明示

取引条件の明示義務として、業務委託に際して以下の事項を明示することが求められます(法第3条)。

① 発注者名称及び受注者の名称
② 業務委託をした日
③ 受注者が行うべき業務の内容・納品すべきもの内容や範囲等
④ 納期
⑤ 納品場所
⑥ 納品物についての検査期日(納品物検査する場合のみ)
⑦ 報酬の額(又は算定方法)及び支払期日
⑧ 支払方法(現金以外の報酬を支払い場合のみ)

これらの事項を漏れなく明示するためにも、事前に書式を用意しておくことが重要です。厚労省が契約書のひな型を公開しているので、参考にされるとよいでしょう(https://www.mhlw.go.jp/content/001318002.pdf)。
なお、書式は必ずしも契約書でなくても問題ありません。発注書やメールに記載する方法でも可です。

(2)ハラスメント防止体制の整備 (一部の発注者のみ)

ハラスメント防止体制の整備その他必要な措置して、以下の事項を実施することが求められます(法第14条)。

①ハラスメントをしてはならない旨の方針の明確化及び周知・啓発
②ハラスメントの相談に応じて、適切に対応するために必要な体制の整備
③ハラスメント発生時の事後の迅速かつ適切な対応

具体的には、業務委託の受託者を対象に含むハラスメント防止規程の作成及び周知(社内ポータルにおける掲示など)を行い、併せてハラスメント相談窓口を設置し及び対応マニュアルを作成しておくとよいでしょう。いずれも厚労省等がひな型を公表しているので、参考にするとよいでしょう(https://jsite.mhlw.go.jp/yamagata-roudoukyoku/roudoukyoku/gyoumu_naiyou/koyoukankyoukintousitu/kiteirei.html)。

(3)育児介護等に対する配慮 (一部の発注者のみ)

妊娠、出産、育児又は介護(育児介護等)に関する受注者からの申出に応じて、以下配慮を行うことが求められます(法第13条)。

① 申出内容等の把握
② 取り得る配慮の検討
③ 配慮実施内容の伝達及び実施、又は配慮不実施の伝達及び理由の説明

受注者から育児介護等に関する申出があった場合に、確実に上記①~③の手順を踏むことができるようフローを確認し、受注者との連絡担当者に周知しておくとよいでしょう。なお、検討すべき配慮の内容等については、厚労省が公表している「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(厚生労働省告示第二百十二号)の以下の記載が参考になります。

(申出に対する配慮の例)
① 妊婦健診がある日について、打合せの時間を調整してほしいとの申出に対し、調整した上で特定受託事業者が打合せに参加できるようにすること。
② 妊娠に起因する症状により急に業務に対応できなくなる場合について相談したいとの申出に対し、そのような場合の対応についてあらかじめ取決めをしておくこと。
③ 出産のため一時的に特定業務委託事業者の事業所から離れた地域に居住することとなったため、成果物の納入方法を対面での手渡しから宅配便での郵送に切り替えてほしいとの申出に対し、納入方法を変更すること。
④ 子の急病等により作業時間を予定どおり確保することができなくなったことから、納期を短期間繰り下げることが可能かとの申出に対し、納期を変更すること。
⑤ 特定受託事業者からの介護のために特定の曜日についてはオンラインで就業したいとの申出に対し、一部業務をオンラインに切り替えられるよう調整すること。
なお、特定受託事業者が元委託事業者(他の事業者から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、当該業務委託に係る業務の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合における他の事業者をいう。以下同じ。)の事業所において業務を行う場合には、特定受託事業者からの申出内容について当該元委託事業者に対して調整を依頼することを含む。

厚生労働省告示第二百十二号(抜粋)

また、育児介護等に関する配慮の申出を行ったことや申出を受けたことを理由として不利益な取扱いを行うことも禁じられていますので、注意が必要です。そうした意図がなかったとしても、前後関係から客観的にそのように見える場合には注意が必要です。上記指針の以下の記載が参考になります。

(不利益な取扱いに該当すると認められる例)
① 介護のため特定の曜日や時間の業務を行うことが難しくなったため、配慮の申出をした特定受託事業者について、別の曜日や時間は引き続き業務を行うことが可能であり、契約目的も達成できることが見込まれる中、配慮の申出をしたことを理由として、契約の解除を行うこと。
② 特定受託事業者が出産に関する配慮を受けたことを理由として、現に役務を提供しなかった業務量に相当する分を超えて報酬を減額すること。
③ 特定受託事業者が育児や介護に関する配慮を受けたことにより、特定業務委託事業者の労働者が繰り返し又は継続的に嫌がらせ的な言動を行い、当該特定受託事業者の能力発揮や業務の継続に悪影響を生じさせること。

(不利益な取扱いに該当しないと認められる例)
① 妊娠による体調の変化によりイベントへの出演ができなくなった特定受託事業者から、イベントの出演日を変更してほしいとの申出があったが、イベントの日程変更は困難であり、当初の契約目的が達成できないことが確実になったため、その旨を特定受託事業者と話合いの上、契約の解除を行うこと。
② 育児のためこれまでよりも短い時間で業務を行うこととなった特定受託事業者について、就業時間の短縮により減少した業務量に相当する報酬を減額すること。
③ 配慮の申出を受けて話合いをした結果、特定受託事業者が従来の数量の納品ができないことが分かったため、その分の取引の数量を削減すること。

厚生労働省告示第二百十二号(抜粋)

3.その他気を付けるべき事項

(1)報酬支払は成果の受領から60日以内を厳守 (一部の発注者のみ)

業務委託報酬は、成果物を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定めてそれまでに支払わなければならないとされています(法第4条)。

契約において、これに反する業務委託報酬の支払期日を定めたとしても、当該定めは無効となり、成果物の受領から60日以内に支払わなければなりません。

ただし、再委託(自社が元請となる)の場合は、元発注者からの支払期日から起算して30日以内のできるだけ短い期間を支払期日とすることができます。その際は、受注者に対して、一定の事項(再委託である旨、元発注者の商号等、元発注者からの対価の支払期日)を明示しなければなりません。

(2)不公平な行為をしない (一部の発注者のみ)

受注者に対して、以下の行為を行うことが禁じられています(法第5条1項)。

  • 成果の受領拒否(受注者の責めに帰すべき事由のない場合)

  • 報酬の減額(受注者の責めに帰すべき事由がない場合)

  • 返品(受注者の責めに帰すべき事由)

  • 買いたたき(通常支払われるべき対価に比べ著しく低い報酬額とする)

  • 購入・利用強制(正当な理由なく自己の指定する者の購入やサービスの利用を強制する)

さらに、受注者に対して、以下の行為を行いその利益を不当に害することが禁じられています(法第5条2項)。

  • 自己のために金銭、サービスその他の経済上の利益を提供させること

  • 受注者の責めに帰すべき事由がないのに発注後の発注内容を変更(取消しを含む)すること

  • 受注者の責めに帰すべき事由がないのに成果物の提出をやりなおさせること

発注後のやむを得ない設計変更や仕様変更はが発生した場合には、追加で発生する費用をきちんと負担することが必要となります(場合によっては、元発注者と交渉して追加費用を負担してもらうことも重要となります)。

(3)募集情報のを正確かつ最新に保つ (一部の発注者のみ)

フリーランスの募集広告等を行うにあたって、次の内容を表示する場合には、それが、虚偽の表示又は誤解を与える表示となっていないこと、及び正確かつ最新の内容になっていることが求められます(法第12条)。

  • 業務の内容

  • 業務内容業務に従事する場所・期間・時間

  • 報酬に関する事項

  • 契約の解除・不更新に関する事項

  • 募集者に関する事項

上記厚労省の指針の以下の記載が参考になります。
特に、募集が終了したにもかかわらず、そのまま募集内容を掲載し続けているというケースはありがちなので注意しましょう。

虚偽の表示でなくとも、一般的・客観的に誤解を生じさせるような表示は、3の誤解を生じさせる表示に該当する。
(例)
・ 実際に業務委託を行う事業者とは別の事業者の名称で業務委託に係る募集を行う場合
・ 契約期間を記載しながら実際にはその期間とは大幅に異なる期間の契約期間を予定している場合
・ 報酬額を表示しながら実際にはその金額よりも低額の報酬を予定している場合
・ 実際には業務委託をする予定のない特定受託事業者の募集を出す場合

特定受託事業者に誤解を生じさせることのないよう、次に掲げる事項に留
意する必要がある。
・ 関係会社を有する者が特定受託事業者の募集を行う場合、業務委託を行う予定の者を明確にし、当該関係会社と混同されることのないよう表示しなければならないこと。
・ 特定受託事業者の募集と、労働者の募集が混同されることのないよう表示しなければならないこと。
・ 報酬額等について、実際の報酬額等よりも高額であるかのように表示してはならないこと。
・ 職種又は業種について、実際の業務の内容と著しく乖離する名称を用いてはならないこと。

他の事業者に広告等による募集を委託した場合(募集情報の提供を委託す
る場合を含む。以下同じ。)であって他の事業者が虚偽の表示をしていることを認識した場合、他の事業者に対し、情報の訂正を依頼するとともに、他の事業者が情報の訂正をしたかどうか確認を行わなければならない。

特定受託事業者の募集に関する情報を正確かつ最新の内容に保つに当たっては、次に掲げる措置を講ずる等適切に対応しなければならない。
・ 特定受託事業者の募集を終了した場合又は募集の内容を変更した場合には、当該募集に関する情報の提供を速やかに終了し、又は当該募集に関する情報を速やかに変更すること。
・ 広告等により募集することを他の事業者に委託した場合には、当該事業者に対して当該情報の提供を終了するよう依頼し、又は当該情報の内容を変更するよう依頼するとともに、他の事業者が当該情報の提供を終了し、又は当該情報の内容を変更したかどうか確認を行わなければならない。なお、情
報の変更等を繰り返し依頼したにもかかわらず他の事業者が変更等をしなかった場合、特定業務委託事業者は法第 12 条違反となるものではない。
・ 特定受託事業者の募集に関する情報を提供するに当たっては、当該情報の時点を明らかにすること。

厚生労働省告示第二百十二号(抜粋)

(4)中途解除等を行う場合には事前予告及び理由の開示をする(一部の発注者のみ)

6カ月以上の期間を想定した業務委託契約を途中で解除したり、更新しない場合、解除又は更新期限の少なくとも30日前までにその予告をしなければなりません(法第16条1項)。

なお、「更新しない場合」とは、不更新をしようとする意思をもって当該状態になった場合を指し、契約が絶えず更新されてきた場合のみならず、断続的な発注がなされていた状況で発注止めを行うケースも含まれることに注意が必要です。公取委・厚労省が公表している「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」の以下の記載が参考になります。

(契約の不更新をしようとする場合に該当すると考えられる例)
① 切れ目なく契約の更新がなされている又はなされることが想定される場合であって、当該契約を更新しない場合
② 断続的な業務委託であって、特定業務委託事業者が特定受託事業者
との取引を停止するなど次の契約申込みを行わない場合

(契約の不更新をしようとする場合に該当しないと考えられる例)
③ 業務委託の性質上一回限りであることが明らかである場合
④ 断続的な業務委託であって、特定業務委託事業者が次の契約申込み
を行うことができるかが明らかではない場合
なお、④の場合について、次の契約の申込みを行わないことが明らかに
なった時点でその旨を伝達することが望ましい。

特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方(令和6年5月31日公取委・厚労省)

また、予告の日契約満了までの間に、受注者から請求があった場合には、解除又は契約不更新の理由を開示する必要があります(法第16条2項)。

4.まとめ

以上のとおり、フリーランス法により求められる7つの事項についてお話ししました。どこまでの事項が求められるかは、発注事業者の規模や取引期間により異なりますので、再度ご確認いただければと思います。特に、「取引事項の明示義務」については、フリーランスに業務を発注する全ての事業者に求められる事項ですので、必ず準備をしておきましょう。


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