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82【自腹の覚悟】

こんにちは!

伊藤竜之介です!

お世話になっている方からシェアしてもらった事です!!

伊能忠敬が日本全国の地図を仕上げるのには、通算で9回の測量の旅に出かけているが、それらの中で最も大変だった旅程はどれか。

測量の手間だけを考えると、海岸線がやたら長い三陸海岸とか長崎県あたりを含む回になるかもしれないし、距離などを考えると、小笠原諸島や対馬など離島に行った測量の回も大変かもしれない。

しかし、「天下測量篇」のように全体を見てみると、最も大変だったのは、ぶっちぎりで第1回の南蝦夷測量だったのではないかと思う。


伊能忠敬が55歳にして初めて出かけた第1次測量は、江戸から奥州街道を北へ測量して津軽半島まで出て、そこから蝦夷(北海道)に渡り、根室まで南岸を測っている。

初めての測量なので、あまり長い距離を測れなくて、その後の測量の旅よりも効率も悪く、精度も後の測量に比べると少し劣っている。

まだ当時は未開の地だった蝦夷地を進むわけで、しかも冬が来るまでに戻らなければならないという、
冒険や探検に近い大変な地だったということもある。

でも何より、測量そのものよりも、
「測量事業を許可してもらうこと」
の根回しが他の回よりも圧倒的に大変だったと推察する。

幕府は確かに外国戦からの国防を考える時期だったが、大まかな海岸線の地図は必要かなと思えど、緯度や経度が正確な地図を作る必要性は分からない。

そこに
「測量して地図を作りましょうよ」
というプレゼンから入っていかないといけないから大変だ。

伊能忠敬は本当は地図を作るのが目的ではなく、天文方のお手伝いだから天文学の観点から
「地球の大きさを知りたい」
というのが本来の目的だった。

だから幕府は蝦夷の地形を知りたがっているものの、伊能忠敬は江戸から蝦夷という長い距離を図って緯度1度の長さの計算に制度を持たせようとしたから、江戸から蝦夷までを測ることをなんとしてでも認めさせなければならなかった。


そして、無名だった伊能忠敬に測量の許可が出た最大のポイントは何かというと、なんと言っても
「自腹でやった」
ということだった。

幕府はそれほど緻密さには必要性を感じていなかったので、
「そこまでは予算を割けないぞ」
という態度だったが、伊能忠敬は隠居前は商人としげガンガン稼いだので、自分で出しますからやらせて下さい、と願い出た。

江戸から海ではなく陸路で測っていくのでさらに費用は高くなるが、伊能忠敬は100両を用意した。

しかも測量機器なども幕府から支給されるのではなく自前で輸入してきたりして、70両近くを出している。

終了後にその成果が認められて、幕府からは22両の御用金が支給されたが、帰ってきた時には100両の資金は1分しか残らなかったというので、今でいえば自費で3000万円近くは出していることになる。

その後は、幕府も地図製作の重要性に気づいて、ほとんどの資金を幕府が出すようになったが、最初の2回ほどは、ほぼ伊能忠敬の自腹である。


伊能忠敬のすごいところは、正確な測量技術だとか50歳で勉強を始めたとか、いろいろあるのだが、なんと言っても
「自腹で巨額を出して、認めさせた」
という提案力にあると思う。

「3000万円は自分で出すので、許可だけ下さい」
という提案は、確かに効果的ではあるがそこまで簡単にできるものではない。

伊能忠敬が55歳で測量を開始したということに、
「そんなに年をとってから出発するなんて」
と思う方も多いかもしれないが、伊能忠敬は50歳まで商人としてバリバリ稼いでいて、そこで作り上げた資産を使って自腹を申し出たのだから、その55年間の人生がなければ逆に無理だった。

伊能忠敬は有能な測量師だからすごいのではなく、有能なビジネスマンだからすごいのである。

「これだけお金くれたら、やりますよ」
というタイプの人は、世の中に腐るほどいる。

もらえるものさえもらったら誰でもやるが、中にはもらっただけで雲隠れする人もいるし、それだけの費用対効果が期待できないかもしれないしで、お金を出す人は渋るのが普通だ。

そこでなんとかお金を引き出そうと考える人が多いが、
「お金の部分がネックなんだったら、お金は自分で出しますけども」
と言える人が、一番強い。

それは金持ちとかパトロンの多さとかではなく、単純に
「お金を自分で作ることができる人なんだ」
というのが一番、提案を受ける側からすると心強いのである。

「お金をくれたらやりますよ」
という人よりも、
「お金をくれなくてもできますが」
という人のほうが圧倒的に頼りがいがある。

それぐらいの力があるから、
「任せるに値する人なのではないか」
と思ってもらえる。


提案者には、自腹の覚悟が必要なのだ。

金を無心するだけの提案者よりも、自腹の覚悟を持つ提案者のほうが圧倒的に強い。

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