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創造性を組織はどう扱うべきか

久しぶりに見た米国の作家エリザベス=ギルバートのTED講演が心に刺さったので、今日は創造性と組織の関係性について少し考えてみたいと思います。

創造性を育むには

エリザベス・ギルバートさんを皆さんご存知でしょうか?

彼女は、ジュリア・ロバーツが主演を務めた『Eat, Pray, Love』(日本語タイトル『食べて、祈って、恋をして』)の原作を書いたベストセラー作家です。

下の講演は彼女の本が世界的なベストセラーとなり、推しも推されぬ著名作家となった直後に撮られたものです。

わずか19分程度の話なのですが、タイトルにある通り「創造性」とはどのように育まれるのか、彼女らしいユニークな視点で語られています。ぜひお時間ある時にご覧ください(簡単なサマリーは書いておきます)。

彼女はいかに自分が「もう2度と超えることのできない代表作を生み出してしまったことを周りから気遣われているか」という現状と、「今後作家としてどのように自分の創造性と向き合っていこうとしているのか」について率直に語ってます。

確かに、偉大なアーティストが自分の才能に絶望して自殺をしてしまうなんて事例は古今東西、数え切れないほどあります。彼女は当時40歳ですので、現役としてあと40年近くこの問いと向き合う立場にあったわけです。

彼女はとても素直に自分が成功した事実を認めつつ、自分と同じように才能と向き合っているアーティストの例をあげながら、

創造性は特定の人だけに宿るものではなく誰もが持っているものであり、それが発揮されるかどうかは自分だけの問題ではない

という風に思考を転換することが、創造性を正しく育んでいくのに重要なのだと訴えています。

創造性はどこにあるのか

エリザベス氏は次のように語ります。古代のギリシアやローマでは、創造性、天才性はもともと人に備わっているものではなく精霊のようにその人の近くに存在しているものと解釈されていた、と。

だからこそ、自分自身が仮に駄作を書いたとしても、それは自分だけの責任ではないはずだし、そのように創造性を捉えること、つまりは「創造性は誰もが持っているものであって、それが引き出されるかどうかは自分だけではコントロールできない」と考えることの方がよほど前向きじゃないか、というわけです。

私はこれを聞いて、才能と向き合い続けているアーティストならではの視点だなと思う一方で、これはビジネスの領域に応用すべき考え方なのではないかと思いました。理由は3つあります。

第一に、「創造性がある人/ない人」という二元論で語ることには弊害があること。例えば、安易に特定の人を「天才」とラベルづけして崇めることで、私たちは思考停止状態になります。

成功には様々な環境要因(タイミング、周りで支えてくれる人々)があるはずですが、創造性を個人に帰結させると、ほぼ再現性のない話に終始します。著名経営者の本や伝記から実践に使える知恵を導き出すのが難しい理由はここにあると思います。

第二に、「組織環境」というコントロールが可能なものにフォーカスができること。人材育成や採用は結果をコントロールするのが非常に難しい領域だと思いますが、組織環境は人事評価や目標管理方法をはじめ経営者の意志でつくりあげられるものだと考えます。

特にビジネスの世界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)という流れの中で、この「創造性を個人を直接結びつける」ことばかりに目がいき、創造性を活かす環境が何なのかという議論がすっぽり抜け落ちていることが多いと感じます。凡人が天才を殺す、という話もありますが、それも含めて環境が全ての人の天才性(ジーニアス)を殺す、と思っています。

そして最後に、そのほうが組織としての「心理的安全性」を担保できるからです。これからは効率性ではなく学習の時代です。予測できない未来の中で、特定のゴールに向けて突き進むのではなく、失敗から学び、成長し続けるための学習する組織が何よりも重要になります。

その際に心理的安全性を確保することは、現場社員の新しいトライアルを促し、チームとしてのコラボレーションを活性化させてくれるはずです。

デジタルリテラシーも高く、ヒューマンマネジメントもできる強いリーダー人材を欲しいと思う前に、全ての人が創造性を持っているという前提に立ち、それを活かせる組織とは何かを考え行動することの方が、長い目で見て大事なのではないでしょうか。

創造性が活かされる組織文化

「創造性が個人に宿る」という考え方から、「創造性は誰もが持っていて、それを活かせるかは組織次第」という考えを前提にした時、組織はどう変わるのか。

直接的な事例ではありませんが、復活を遂げたといわれるソニーの平井氏がCEOに就任した際、自社の若手社員と会話をして感じた以下の言葉こそ、まさに創造性を活かせない組織への課題意識だったと思います。

みんなプライドを持ってソニーに入ってきた。「これでいいや」とは誰も思っていない。直接話してみると、会社が若手たちの声と向き合っていないだけだと分かってきた。せっかくアイデアがあるのに(上司たちは)ちゃんと聞いてくれないと……。日本経済新聞 「エレキのソニーとの決別」(7/14)

創造性がないのではなく、創造性を活かされる場がないと考えること。人材が足りない、外からテクノロジー人材を採用しよう、という話の前に、「創造性を引き出すための環境・組織」について考えることの重要性を、このエピソードは示唆していると思います。

昨今続くDXの議論にしても、テクノロジー人材が足りないという人の能力に帰結する課題意識の前に、創造力を活かせる組織文化が自社にあるのかを問うことが大切ではないでしょうか。

個人では優秀な人がいる組織なのに、集団になるとなぜか信じられないような判断ミスを犯してしまう、なんて現象が起きるのも、個人の創造性を活かせない組織文化が原因となっていると感じます。

アジリティ、リスク選好、意思決定プロセス、権力格差構造など、現状を把握し、望む組織文化に近づけるために意図的なアクションについて考えることは決して難しいことではありません。

話は尽きませんが、ふと組織が個人の創造性を活かすにはどうすれば良いのかという重要な問いについて考えさせられた、エリザベス・ギルバートの言葉でした。皆さんの知的刺激に少しでもなれば幸いです。

では今日はこの辺で。


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