「言ってくれたら直すのに」の傲慢さ
発達障害の人は幾度となく他人がスッと離れていく経験をしたことがあると思います。そんな時ふと、「ダメな部分を指摘してくれたら直すのに」って思いませんか?? 私は何度もあります(笑)。
当時の私は皆に受け入れてもらおうとそれは必死で、必死さが極まった先には憎悪が待っていました。「これだけ頑張っているのに教えてもくれない」から、やがては「あいつら陰で酒の肴にでもして笑ってるんだろう」とか「日本人独特の察しろコミュニケーション、クソだわー」に変化したわけです。最終的には諦めてしまって、もうどうにでもなれという感じでした。
昔は「言ってくれたら直すのに」というのは、真摯に問題に向き合っている姿勢の現れと思っていたのですが、実はただの傲慢だったというお話を今回私の就活を通して気づいた経験談を交えてお話ししようと思います。
それは大学院時代のことです。就活を始めることになったわけですが、手始めに大学で開かれた説明会に参加することになりました。様々な大手企業が参加する中で、同期はほとんど自分の専門分野の会社に行っていましたが、私は他にもまったく畑の違うベンチャー企業にも顔を出していました。
というのも、当時は大企業は自分に向いていないと思っていたので、とにかくベンチャーみたいな企業なら自分に合うのではと思っていたのです。その中である一社のベンチャー企業の説明会に参加し、面白そうだと思ったので、その会社で開かれる説明会にも参加することにしたのです。
その後、会社で開かれた詳細な説明会にも好感触を持った私は、その後開かれた飲み会でもリクルーターの人に「いい会社ですね、ご縁があったらぜひ入りたいと思います!」なんて宣言していたものです。ところがその後、1dayインターンで雲行きが変わります。それは、昼休みにリクルーターとその他数人の社員さんとインターン生でお弁当を囲んでいたときの話です。食事をしながら雑談をするのですが、その中で社員さんとリクルーターさんの間でその場にいない人の悪口を喋り始めたのです。悪口の対象になった人は、大学での説明会の時にリクルーターさんと一緒に来ていた男性で、その時私から見ても発達障害の傾向があるのかちょっと面倒そうな人ではありました。
悪口を聞いていると、確かに色々とその人にかなりの問題があることは分かりましたし、周りの人たちもその人に随分迷惑をこうむっているのだなという辛さは分かりました。しかしだからといって、部外者もいる昼食の場でベラベラと悪口をしゃべるのはどうなのか?そして自分自身も発達障害の傾向があるわけですから、入社したら同じような目に逢うだろうと非常に不愉快な気持ちになり、ここには行きたくないなと思うようになったのです。
ただ、説明会後の飲み会で「入社したいです」などと言った手前、いきなり辞退しますなどとは言えません。そこでとりあえず面接は行いつつ、同時に行っていたいくつかの大企業への採用面接に力を入れ始めました。最終的にそのうちの一つに内定を頂いたので、件のベンチャー企業には辞退のメールを入れたのです。
すると、先方からこんなメールが来ました。かいつまんで書くと、「あれだけ入りたいと言ったのに、辞退するのは残念。何が気に食わなかったのか教えて欲しい。」というメールでした。こうして要約だけ書くと、普通のメールに見えますが、全文を見ると「なぜ辞退した」という恨みがましさと「頑張って直すから!」という妙な執着を感じさせる文面でした。
正直なところ、「陰でゴチャゴチャ悪口を言うのが気に食わないんだよ」と送ってやろうと思ったのですが、それは止めました。その時に止めようと思った理由を自分なりに分析したんですが、一番の理由は別に陰で笑ってやろうとか、日本人独特のはっきり言わないコミュニケーションでもなく、気に食わなかったことをあのような相手に伝えることに意味が無いことに気づいたのです。
なぜなら正直に理由を伝えたところで、悪口に参加した社員に「インターン生の前で悪口を言うな」とお説教が飛ぶだけで、本質的なところは何も変わらず、臭いものにフタをするだけだと気づいたのです。むしろ下手に教えてしまって臭いものにフタされてしまうと、表面的なだけのクリーンなイメージに今後のインターン生が騙されて入社してしまうだけではないかと思ったのです。だったら、伝えるよりも自分たちで気づいてもらうほか無いよねということで、「もっと魅力的な企業が見つかってしまって・・・」という適当な理由をつけてお断りしたのです。
その後、私の答えに対して何の返答もなく(「承知しました」の一言すらもありませんでした。)、この不誠実さにやっぱり正直に答えなくて良かったなと思いました。
話は冒頭に戻りますが、「言ってくれれば直すのに」という昔の私を含めた当事者の悩みは、このベンチャー企業の行動に相当することがお分かりいただけますでしょうか?結局指摘されたところで、表面的な部分だけ直して、本質的なところに何もアプローチはされていないのです。そして、本質にアプローチしないただ気を付けるだけのアプローチでは少し状況が変われば応用も効きませんし、ただでさえ少ない脳内ワーキングメモリを消費するので、今度は別の部分でケアレスミスなどの問題を引き起こす結果になるのです。
世の中に存在する発達障害者向けのライフハックは総じてこのような「臭いものにフタする」だけのものです。もし本質的に直したいと思うなら、私のこれまでのシリーズを読むのがおすすめです。
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