いにしえのゴブリン退治
中学から高校にかけて、TRPGをめちゃくちゃやっていた。TRPGとはテーブルトークRPG(ロールプレイングゲーム)の略で、プレイヤーが自らキャラクターを演じながらお話を進めていくゲームのことである。
最近はオンラインツールの発達もあって、ごく一部ではあるがTRPGは再びブームになっている感がある。ひと口にTRPGと言っても様々な世界観を遊ぶ様々なルールがある。近年の日本での再ブームは『クトゥルフの呼び声』という、H.P.ラブクラフトの怪奇小説群(クトゥルフ神話シリーズ)の世界観をモチーフにしたルールが主流となっており、小説の世界観を反映した近現代が舞台であることが多いようだ。名作と呼ばれるようなシナリオがネットでも数多く公開されていて、オンラインでも遊べるようになったことは文化の発展に大きく寄与していると言えるだろう。
僕たちが遊んでいた頃(1990年代後半である)は、いわゆる『剣と魔法のファンタジー』な世界観が主流だった。屈強な戦士、聡明な魔法使い、狡猾で手先が器用な盗賊……そんな冒険者たちがパーティーを組み、魔物と戦いながら冒険をしている。そんな世界を遊んでいた。今のようにネットで検索すれば無料で遊べるシナリオが落ちているなんて時代でもない(そもそもインターネット環境がある家の方が珍しい時代だった)。お話は自分で考えていた。冒険者たちは『ギルド』と呼ばれる組織に属していて、ギルドから依頼された『クエスト』を解決して報酬を受け取る。今回のクエストはこんな依頼です……みたいなのが定番だった。
そんな定番の中でも定番だったのが、ゴブリン退治だ。前置きがクッソ長くなってしまったが、今日の本題はこれである。ゴブリン、日本語では『小鬼』と訳されることもある、ファンタジー世界における定番ザコモンスターである。洞窟や廃坑に住み、人間の子供程度の大きさの、二足歩行の種族。ある程度の社会性はあるが知性は低く、しかし武器や道具を使う程度の知性は持ち合わせ、残忍で凶暴で、でも臆病で……そんなモンスターだ。
ゴブリン退治と言えど、シナリオは色々なバリエーションがある。廃坑にゴブリンが棲みついて困っている村があるから出向いてゴブリンを退治して欲しい、或いは旅の途中でたまたま立ち寄った村でゴブリンの噂を聞いて退治に乗り出す。村に着いた冒険者たちは村人たちから歓待を受けることもあれば、よそ者に対する冷たい態度を受けることもあるだろう。一夜明けて翌朝すぐに奴らの根城に向かうのが最短ルートだが、数日前に山菜採りに行ったきり帰って来ない村の子供の噂を聞いたり、村の老人から廃坑にまつわる伝承を聞いたりすると、単なるゴブリン退治でも深みが増すこともある。それでもメインはゴブリン退治だ。1匹1匹ならば手練れの冒険者の敵ではないゴブリンだが、慣れない敵の住処で地の利を取られたり、思わぬ武器や戦術に苦戦を強いられることもあるかもしれない。それでも工夫してゴブリンを退治してめでたしめでたし……となる場合もあるが、ゴブリンたちの裏に何が1つオマケを付けてあげるのもまたセオリーだ。ゴブリンたちの住処の廃坑の奥にある怪しい邪教の神殿、そこで行われている生贄の儀式。妙に組織化されたゴブリンたちの裏で糸を引いていたのは、数年前に行方不明になっていた村長の弟だった。ゴブリンを退治して安心したのも束の間、崩落に巻き込まれて落下した地の底で眠っているドラゴン……そうか、だからゴブリンたちはあんなにも怯えていたのか!封印から蘇った邪神の眷族や、長い眠りから目覚めたドラゴン相手に冒険者たちはどう戦うのか。戦いはクライマックスを迎え、勝利の暁には大きな達成感を得たり、大いなる脅威へと繋がる陰謀の糸口を掴んだり、莫大な財宝を得ることもあるだろう。
今思えばこんなことばっかり考えていた変な青春時代だったなと思わないでもないけれど、今でもあれやこれやと創作活動に励んでいるところを見ると、どうやらこれは元々持ち合わせていた性分なのだろう。ふと思い出した、ゴブリン退治の日々の話である。
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