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西の魔王と東の魔王

むかしむかしあるところに、西の魔王と東の魔王と呼ばれる2人の魔王がおりました。2人は世界の覇権を争って長い間戦い続けていました。長い戦いの中、西の魔王は200年前に片目を失い、東の魔王は100年前に翼をもぎ取られていました。それでも2人は戦いをやめず、戦いは300年に渡って続いていました。

2人はとうとう、禁断の呪法に手を出してしまいました。西の魔王は世界を滅ぼす魔剣を、東の魔王は大いなる災いをもたらすいにしえの魔導書を手に入れたのです。西の魔王は東の魔王に向かって魔剣を振りかざし、東の魔王は西の魔王に向かって禁断の術を解き放ちました。2人の身体はバラバラになりました。長い戦いが終わったのです。

恐ろしい魔剣の斬撃にまっぷたつに切り裂かれながら、東の魔王は思いました。西の魔王と戦い続けたこの300年は楽しかったな、と。元々は世界の覇権を巡っての戦いだったはずです。でもいつしか、東の魔王は西の魔王と戦うことそのものが目的になっていたことに気が付きました。ずっと戦い続けていたかった。それだけだったのだ。薄れゆく意識の刹那、自分の放った術に焼かれる西の魔王が見えました。

恐ろしい魔術の炎に焼かれながら、西の魔王も思いました。東の魔王と戦い続けたこの300年がこれで終わってしまうのは寂しいな、と。西の魔王は東の魔王と戦っている時間が何よりも生を感じられていたことに気が付きました。この感情をどう表現すればいいのか。西の魔王は、「愛」という言葉しか思いつきませんでした。あぁ、私は東の魔王を愛していたのか。気付いた時には、東の魔王は自分の放った斬撃でまっぷたつになったところでした。

死の間際、2人は願いました。もし生まれ変わることが出来るのならば、今度は互いに憎しみ戦うのではなく、同じ方を向いて、手を取り合って共に生きたい、と。2人の魔王はお互いの攻撃で反対方向に吹っ飛ばされて死んだはずなのに、その亡骸は何故か抱き合うように折り重なってひとつになっていたのだと伝えられています。

100年後、北の魔王の城が見える小さな丘に、戦士と魔法使いが2人立っていました。戦士は伝説の魔剣を携え、魔法使いはいにしえの魔導書を手にしていました。北の魔王を討ち倒し、世界に平和を取り戻す。そのために2人はここまで旅を続けてきたのでした。戦士は魔法使いのことを愛していました。魔法使いも戦士のことを愛していました。2人とも互いの思いに気付いていましたが、全ては戦いが終わってからだということも分かっていました。世界のため、愛する人と共に歩む未来のため、2人は魔王の城に向けて一歩を踏み出しました。

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