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人生を変えた映画

映画が好きな人ではなくても、『人生を変えた映画』みたいな作品がある人は少なくないだろう。しかし僕にとってのそれが、インド映画『ムトゥ踊るマハラジャ』だと言うと、大抵みんな、なんで??wみたいなリアクションをする。

98年、今はなき渋谷のシネマライズで、『ムトゥ踊るマハラジャ』は公開され、空前の大ヒットを記録していた。後に(一部の界隈で)続くインド映画ブームだけでなく、日本におけるインド料理屋の増加やインドへの旅行者の増加など、インド文化の流行の引き金になったとも言われている。そんな満員のシネマライズで僕は、『映画館で拍手が巻き起こる』という出来事を初めて体験した。

当時僕は大学で演劇を学んでいた。授業ではいわゆるワークショップのようなことをやったりしていたのだが、田舎の高校の演劇部にいた程度の若造にはこの授業たちが何の役に立つのかがいまいち分からず、モヤモヤとする日々を過ごしていた。それでも僕は舞台は素晴らしいものだと思っていて、その一番の理由は『ライブ感』だと思っていた。お客さんと空間を共有出来る。これは映画にはない魅力だと思っていた。そこへ叩きつけられたのが、『映画館で拍手が巻き起こる』だったのだ。

インドでは映画を見ながら拍手をしたり、歓声を上げたり、何なら一緒に歌ったり踊ったりすることもあるらしい。今思えば、そういうことを『知っている』人が観客の中に混ざっていて、率先して拍手をしたのかもしれない。それでも少なくとも僕はあの場で自然に拍手をして、声を上げて笑い、歓声を上げた。それは演劇や音楽ライブに勝るとも劣らない『ライブ感』であり、一体感であった。映画なのに!演者が目の前で実際に演じているわけでもないのにこんなことが出来てしまうのか!映画にこれをやられたら演劇は何も敵わないじゃないか!!僕は衝撃を受けた。

結局ムトゥ踊るマハラジャは映画館で3回観た。毎回拍手が起こり、歓声が上がり、みんな大笑いしていた。僕はTシャツとサントラCDとパンフレットとビデオソフト(時代ですね)を買った。

それから僕はそれまで以上に映画に傾倒し、結果的に大学を辞め、映像を学ぼうと志すことになる。その決断のきっかけになったのが、『ムトゥ踊るマハラジャ』を満員のシネマライズで観た体験であり、文字通り僕の『人生を変えた映画』なのである。

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