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ハゲいじり to LOVE

妻と出会ったのは手伝いに駆り出された大学時代の友人のイベントの打ち上げ会場だった。渋谷の安居酒屋、座敷に通されて上着を脱いで、席に座って帽子を脱いだ僕を見て開口一番、「めっちゃハゲとるやないかい」と言ってゲラゲラ笑ったのが妻だった。

打ち上げの間、妻はひっきりなしに僕のハゲをいじり、僕は彼女のいじりにツッコミを入れたり怒ったふりをして見せたりして、僕たちは爆笑を取り続けた。最初はデリカシーのない、失礼なやつだと思ったが、彼女は底抜けに明るく、しつこく、僕が真っ当にリアクションさえすれば必ず笑いになるように絶妙に、様々な角度でハゲをいじり倒してきた。これだけ笑いが取れれば流石に僕だって悪い気はしないものだ。痛快な飲み会は僕たちのリサイタルのように盛り上がってあっという間に終わった。

「私ハゲてる男が好きな変人なんだけどさ、それでも良かったら今度は2人で飲みに行こうよ。連絡先教えてよ」飲み会の帰り道にそう言ってきたのは彼女の方だった。僕は若干戸惑いながらも勢いに負けてLINEを交換した。そうして愉快極まりない奇特な人は僕の彼女となり、ほどなく僕たちは一緒に暮らすようになり、やがて彼女は僕の妻になった。

今でも妻は、隙あらば僕のハゲをいじってくる。頭を叩き、撫で、キスをし、ガラスマイペットで拭こうとしてきたり、四季折々の花の種を植えようとしてきたり、おっぱいを頭に乗せて、どれがおっぱいでどれがハゲ頭かクイズを出してきたりする。妻と付き合い始めてから、僕は彼女のハゲいじりにツッコミを入れるのに忙しくて、自分がハゲていることへのコンプレックスだ何だといった気持ちはすっかり忘れてしまった。まったく酷い話だ。そういえば外出する時にも帽子を被らなくなったのも妻と会ってからのような気がする。僕は幸せ者だなとつくづく思う。

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