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かの地への旅

溜まっていた有給を使って、俺は前々から計画していた旅行を実行することにした。飛空挺を乗り継いで27時間。ようやく辿り着いたかの地は、思った以上に何もない小さな村だった。

山と海に囲まれた辺境の村ギサール、チョコボの好物である『ギサールのやさい』の産地として知られているが、実際にそこを訪ねたことがある人は少ない。俺はチョコボ乗りとしていつかここに来るのが夢だった。その夢が今ようやく叶ったのである。

「おやまあ、こんな辺境の町に人がやってくるなんて何年ぶりだろうね」入り口にいた男はそう言って、俺がわざわざギサールに来たのだと言うととても驚いていた。しかし親切に村にひとつしかない宿屋に案内してくれた。1階がパブになった小さな宿屋で、簡素なベッドが2つ並んだ小さな部屋は隅々まで綺麗に掃除が行き届いていた。

荷物を置くと、俺はふらりと村に出た。村の入り口辺りには羊が放し飼いにされていて、羊飼いの少女が草笛を吹いて遊んでいた。きちんと整備された水路には、おそらく何十年も前に作られた石造りの立派な橋がかかっている。橋から水路を見ると、ちいさな魚がキラキラと泳いでいるのが見えた。

橋を渡って村の中心にあるのが、産業の中心でもあるチョコボの厩舎だった。とは言え作りはシンプルで、柵で囲われた中に何匹かのチョコボがいるだけだったが、俺がこれまでに見たどのチョコボよりも毛並みがよく人懐っこく愛嬌を振りまいていた。厩舎にいた老人に話を聞くと、ギサールのやさいで育ったチョコボは病気もなく健康に大きく育つのだと言う。俺は中でも特に懐いてきた1匹のチョコボをよしよしと撫でさすった。

宿に戻ると俺はパブで夕食を取った。カブとキャベツのスープに柔らかいパン。スープは野菜の濃厚な甘みがして旨かった。パブにいた踊り子の女と仲良くなって少し酒も飲んだ。ツマミに頼んだ肉の煮込みはしょっぱくて酒が進んだ。女は小さな村に飽きてはいたが、村を離れるつもりはさらさらないのだと言う。酔って浮かれた踊り子にチップを渡すと、女は見事なダンスを披露してくれた。とても楽しい夜だった。

少し遅めに起きて朝食を食べた。卵焼きとベーコンとトーストとコールスローサラダ。昨夜の酒で少し疲れた内臓に染み渡るような美味しさだった。食べ終わって紅茶を飲んでいると、宿屋の娘だろうか?ひとりの少女が話し掛けてきた。この村の素晴らしさ、この世界の素晴らしさを語る少女はとても活き活きとしていて、何だか俺まで元気をもらったような気持ちになった。少女はつるぎざきと名乗った。珍しい名前だなと思った。

旅はあっという間だった。帰りの飛空挺に揺られながら、俺はしみじみとギサールの村を振り返っていた。まるでそこだけ違う音楽が流れているかのような、独特の時間が流れる素晴らしい村だった。行って良かった。お土産に買ったまほうのかぎを弄びながら、俺はふわふわと撫でたチョコボの毛並みを思い出していた。いつかきっとまた行こう…そう誓いながら、俺は眠りについたのだった。

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