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空を見なさい

小学校の頃、土曜日の集団下校の前に運動場で短い全校集会があった。そこで教頭先生がちょっとした挨拶をする。その時にいつも、「空を見なさい」とみんなに空を見させる一コマがあった。

とても厳しい女の教頭先生だった。何かをやらかしてめちゃくちゃ怒られたり、引っ叩かれたりした子もたくさんいた(そういう時代だ)。分かりやすくキャラの立った名物先生だ。校長先生の名前はもう忘れてしまったが、教頭先生の名前は今でも覚えている。集会で教頭先生の挨拶になるたびにみんな、「そろそろ来るぞ」とザワついて、お決まりの「空を見なさい」が来ると、待ってましたと笑ったものだ。小学生の鉄板ネタと言えば先生のモノマネだが、「空を見なさい」は中でも鉄板中の鉄板だった。誰かがモノマネをしてはゲラゲラと笑ったものだ。「空を見なさい」「そら見たことか」なんてダジャレもあった。

あれから30年以上経って思う。「空を見なさい」はとても素晴らしい教育だった。移り変わる季節を感じる。日によって季節によって変わる雲や空模様に興味を持つ。太陽の、自然の恵みに感謝する。それはとても大切なことだ。おそらく教頭先生は、自分が笑われていることも、「空を見なさい」がネタみたいに使われていることにも気づいていたはずだ。それでも先生は「空を見なさい」と言い続けてくれた。確固たる信念がないと出来ないことだ。そういえば僕の書くお話には空の描写や、主人公が空を見る描写がよく出てくる。つい先日も早起きした朝焼けの空が綺麗だった話を書いたところだ。これも教頭先生の影響と言えばそうなのかもしれない。

あれから30年以上だ。教頭先生はおそらくもう引退されているだろうし、もしかしたらもう亡くなられているかもしれない。それでも「空を見なさい」はこうやって僕たちの中に残っている。教育というのは立派な仕事だなと思う。今日も早起きの秋の空を見て、ふと小学生時代を思い出した、そんなお話でした。O山先生、ありがとうございます。

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