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映像化のお話

これだけ毎日文章を書いていると、運良く誰かの目に留まることもある。某動画配信サイトの企画担当だという人からSNS経由で連絡があって、あなたの作品を映像化したいですというオファーがあった。

オファーがあったのは、僕がよく書いている他愛のない、どこにでもいるようなふたりのちょっと報われない恋愛話のひとつだった。配信限定の企画で、恋愛にまつわる短編映像集なのだという。提示されたギャラも悪くなかったし、僕は喜んでオファーを受けることにした。しかし企画が進んでいくにつれて、ちょっときな臭くなってきた。

まず最初は登場人物の名前の変更だった。登場人物は男性と女性、タカシとよし子という名前だった。僕は僕の書く物語の登場人物たちにはどこにでもいるようなありふれた名前を付ける主義だ。だがそれがよろしくないのだと言う。タカシは明(ライト)に、よし子はひかりに変更になった。どちらも明かりに縁がある名前の2人が出会う、その方がドラマティックでしょう?と脚本家さんは言った。それ自体は分からないでもないが、そういう特別な2人の物語ではなくどこにでもいるありふれた物語だからそういう名前にしていたのに。でもまあそこはしぶしぶ受け入れた。だがそれは、地獄の始まりに過ぎなかった。

多方面への配慮が必要ですと、明(ライト)の親友としてトランスジェンダーの女性(元男性)のキャラクターが追加された。ひかりはアフリカ系の父親と日本人との間のハーフでバイセクシャルという設定になり、ひかりの元カノとして登場する中国人女性も追加になった。LGBTQ的な配慮をし、アジア人と黒人をキャスティングしないとスポンサーから予算が出ないのだという。明(ライト)とひかりが出会って最初に行く場所も、居酒屋からオーガニックカフェに変更になった。明(ライト)は完全な菜食主義者で、食品添加物も一切摂らない人間だと変更になったからだ。

完全な菜食主義者で食品添加物も一切摂らない明(ライト)は、ひょんなことからアフリカ系の父親と日本人とのハーフでバイセクシャルのひかりと出会う。明(ライト)は元男性で今は女性になった親友に助言を仰ぎつつ、2人の仲を邪魔しようとしてくるひかりの元カノの中国人女性の妨害にもめげず、次第にひかりと仲良くなってゆく……これはもはや僕の作品ではなかった。

僕は原作を降りますと話をした。原作を降りるのであればギャラも満額で支払うことは出来ませんと言うことになり、分かりましたと言ってやって18000円だけもらった。僕が降りてからはさらに改変が進んで、明(ライト)は右手で触れた相手の記憶を読むことが出来る能力者に変更になったらしいが、もはや知ったこっちゃない。映像は散々に酷評され、2人が入念に口頭で性的同意を取ってからベッドインするラブシーンの切り抜き動画だけがバズって話題になった。こんな形で自分の作品が初めて映像化されるのは極めて不本意だったが、勉強になったと思うしかない。もらった18000円で食べに行ったちょっといい焼き肉屋さんだけはいい思い出だ。

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