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愛のトイレットペーパー

ユカリが出て行ってから、トイレットペーパーが全然減らなくなった。住む人間が1人少なくなるというのはこういうことなんだなと、朝のトイレでトイレットペーパーを交換しながらしみじみと思った。まさかこんなことでユカリと別れたことを実感するだなんて思わなかった。

一緒に生活をするようになると、何となくそれぞれ共同生活における役割が決まってくるものだ。トイレットペーパーを買うのは僕の仕事だった。アイツが出ていく前の日に買った12ロール入りのトイレットペーパー、まだたっぷり8ロールも残っている。これを全部使い切るのは一体いつになるのだろうか。正直想像も出来ない。

愛情はトイレットペーパーに似ている。当たり前にそこにあって、いくら使っても無限になくならないように見えて、でもいつの間にか細っていって、なくなってから初めてその大切さに気付くのだ。新しいロールに交換しても、空っぽになった芯だけ何故か捨てられずにしばらくそのまま転がっていたりする。汚いものを拭って包み隠して水に流して、愛情によって僕たちは生かされているのだ。

あの日ユカリと僕が使うために買ったトイレットペーパーは、あれから僕のおしりのためだけに使われている。愛情はトイレットペーパーに似ている?ならばひと拭きごとにユカリへの愛情も水に流して忘れてしまうことにしよう。2人で過ごした思い出、果たせなかった約束、忘れられない温もり。拭って包み隠して水に流して、全部忘れてしまおう。いつになるのかは想像も出来ないけれど、全部使い切った頃にはきっとまた、新しい恋に向かえるようになっているはずだ。何故か捨てられずに転がっていた芯を、僕はつまみ上げて潰してゴミ箱に捨てた。

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