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魔弾の射手

「好きです。俺と付き合ってください」

愛の告白は銃を撃つのに似ている。4回目のデートの帰り道、駅までの近道にと選んだ井の頭公園の街灯の下で、俺は意を決してリボルバーの引き金を引いた。誤たず彼女のハートを撃ち抜くことが出来れば俺たちは恋人になれる。俺には勝算があった。

彼女は仕事関係で知り合った友人だった。映画が好きだという話で盛り上がって、どマイナーなポーランド映画を一緒に観に行くことになって仲良くなった。それからはたまに遊びに行ったり何でもない連絡をし合ったりするようになり、俺はいつしか彼女に好意を持つようになっていた。久しぶりに一緒に映画に行くことになった今日。今日こそは想いを伝えるぞと懐にリボルバーを忍ばせて家を出た。正直映画を観ている間もその後に行った居酒屋も、心はふわふわとうわの空だった。

彼女と仲良くなっていったここ数ヶ月を思う。最初は敬語だったのがタメ口になっていった。連絡の頻度も増えて、「あのテレビ見た?」とか何気ないことも連絡し合うようになった。前回一緒にカラオケに行った時は、隣に座った彼女からは何度もボディタッチがあった。カラオケを解散したあとに彼女から来たLINE、「また遊ぼうね♡」とハートマークが付いていた。今日の居酒屋では互いの恋愛観の話もした。付き合う相手には何を求めるか、俺の答えに彼女はうんうんと頷いていたじゃないか。これはもうそういうことだろう。行ける、大丈夫だ!告白の弾丸は白く輝く糸を引いてまっすぐに彼女の心臓に向かっていく。これは俺たちの未来を拓く魔弾となるのだ…!息を飲んでその軌跡を追った。

彼女が驚きの表情を見せ、眉間にスっと皺が寄った。あれ?魔弾の軌道がぐにゃりと歪む。弾丸は心臓を大きく外れ、彼女の右耳を吹き飛ばした。あぁ、俺は何という愚かなことをしてしまったのだ。友情を好意と履き違え、自分勝手に告白の魔弾を撃って彼女を傷つけてしまった。「魔弾が心臓を撃ち抜けなかった時、その時はお前も大きな代償を払うことになるよ?」魔弾の魔女はそう言った。と、左半身に苦痛が走る。ぼとりと汚い音を立て、黒く穢れて腐り落ちたのは俺の左腕だった。右耳を失った彼女と、左腕を失った俺。共に苦痛に顔を歪め膝をついたまま、俺たちはポツリポツリと、終わってしまった世界の行く末の話をした。

(昨日書いたお話のもうひとつの可能性、バッドエンドルートのお話でした)

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