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「さなコン」の作品を書くにあたって考えたこと

 「さなコン」に応募した。
 「さなコン」というのは、「日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト」の略称(公式)で、今回は、共通の書き出しというオーダー。

 その書き出しというのが、これだ。

朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。

 これがなかなかのクセモノだったので、執筆にあたって最初に考えたことを備忘録的に記しておこうと思う。

① 人称と視点の問題

 まず、この一文は一人称で書かれている。少なくとも、そう読むのが最も自然だ。
 ポイントは、「朝テレビのスイッチを入れると」の部分。ここには、主語が省略されている。
 日本語はそもそも主語の省略が多い。中でも、一人称の主語は、何の前提もなく省略される。
 当然、この後の組み立て次第では、三人称で書くことも無理ではないが、いずれにしても、視点の設定が必要になる。つまり、焦点人物のいる空間は「テレビのスイッチを入れ」た場所になってしまう。

 僕は、部屋の中から始まる小説を書くのが、苦手だ。
 僕の小説の主人公は(誰のせいだか知らないが)内向的/インドアになりがちで、部屋の中から始まると、なかなか外に出ようとしない。

 というわけで、応募作では、ちょっと変な解消の仕方をしてみた。
 結果的には、焦点人物の半数は部屋から出てこないのだが、そこにも意味を持たせてみたという次第。

② テレビの問題

 SFといっても様々で、100年後の宇宙旅行を描こうが、100年前の歴史を改変しようが自由なわけだが、「朝テレビのスイッチを入れると」と書かれると、そういうわけにはいかない。
 単純な話、100年後の未来を舞台にしたとして、「朝テレビのスイッチを入れる」という風景は、ちょっと想像しがたい。百歩譲って「テレビ」という物が残っていたとして、「スイッチを入れる」という動作のレトロ感はいかんともしがたい。
 現実的に考えて、これは今の風景だ。もしかすると、20世紀後半の風景かもしれない。

「恐怖の大王は1999年に空から来る、アンゴルモアの大王を甦らせる存在だ」(恐怖の大王 - Wikipedia

 そっち?
 うーむ。それはできれば避けたい……。

 もちろん、「現実的」になんて考える必要はないわけだが、あえてそこにこだわってみたのが今回の応募作だ。
 結果的に、今でないと書けない作品に仕上がったと思う。

 ちなみに、作品の強度、ということで言えば、強すぎる同時代性はマイナスに働くかもしれないが、今回はネット上のお祭りなので、楽しさを重視した。
 これは、二年前のBFCに出した作品「あの大会を目指して」も同じ。

③ 「世界の終わりまであと七日」の問題

 普通に考えて(もちろん、「普通」になんて考える必要はないのだが)、これは突然の発表ではない。数日前から、もしかすると数週間、数箇月前から「世界の終わり」は予告されていた――そんなテンションだ。
 にもかかわらず、ニュースキャスターは冷静に挨拶をし、最後の一週間の開始を告げる。
 このキャスターは、こんなテレビを放送しているのは、そして、こんなテレビを見ているのは、一体どんな人間なんだ。

 いやいや、そもそものところ、このキャスターの言葉を真に受ける必要はない。

・ そうは言ってるが、結局、世界は終わらない。
・ 「世界の終わり」=世界の滅亡、ではない。
・ 実はこの言葉自体がネタ。

 そんなふうに、このキャスターの言葉を曲解してみても、面白くなる余地はたくさんある。

 とはいえ、せっかくの前フリ。できるなら真っ向勝負してみたい。
 というわけで、
「このキャスターは、こんなテレビを放送しているのは、そして、こんなテレビを見ているのは、一体どんな人間なんだ。」
という疑問をどストレートに受け止めて書いてみたのが、今回の応募作だ。

*  *  *

 興味を持ってもらえたなら、ぜひ下のリンクから読んでみてください。
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 こういうお祭り企画は楽しい!

Photo by Gaspar Uhas on Unsplash

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