【ショートコント】デートアップデート

〔登場人物〕
Ａ：アン
Ｒ：ロブ
恋人同士の二人。

---

Ｒ：アンちゃん。俺の話、聞いてる？
Ａ：（ぼんやりと）聞いてるよー。
Ｒ：嘘だ。今、上の空だったでしょ。何考えてたの。
Ａ：何も。
Ｒ：何も考えてないとか、不可能でしょ。絶対、何か考えてたはずだよ！
Ａ：（苛立ち混じりに）本当に、マジで、全く、何一つ、考えてなかった！　ほらー。邪魔するから止まっちゃったよ。
Ｒ：あ！　もしかして、アップデート、今しようとしてる？
Ａ：そうだよ。もうすぐでダウンロード、終わるとこだったのに。
Ｒ：デート中にアップデートするのやめてって、前も言ったよね。
Ａ：うん。前も言われた。
Ｒ：だったらなんで。
Ａ：その時も言ったよ。デート中しか、アップデートする暇ないって。
Ｒ：そんなわけないでしょ。
Ａ：仕事中にアップデートしたら、仕事になんないでしょ。
Ｒ：仕事でもデートでもない時に、アップデートしなよ。
Ａ：そんな時間ないもん。
Ｒ：だったら、昨日の就業時間の後は、何してたんだよ。
Ａ：それは、みんなの就業時間でしょ。みんなが退勤した後じゃないと、システムのメンテも、クリーンアップもできないんだって。
Ｒ：え？　みんなが帰った後も仕事してたってこと？
Ａ：そりゃそうでしょ。
Ｒ：疲れちゃうじゃん。
Ａ：疲れないよ。アンドロイドだもん。
Ｒ：そんなことない！　アンちゃんだって疲れるよ！
Ａ：ふふ。そういう気遣いしてくれるロブくん、好き。
Ｒ：（照れつつ）いいよ、気遣いで返してくれなくて。
Ａ：気遣いじゃないよ。ほんとのことだもん。
Ｒ：そんなこと言ったら、アンちゃんが疲れてるのも、ほんとのことでしょ。
Ａ：……まあ。疲れないって言うと、嘘になるよね。
Ｒ：だから、スリープするわけだし。
Ａ：みんなのスリープとは、意味合いが違うけどね。
Ｒ：キャッシュが溜まったら、発散しなきゃだし。
Ａ：みんなもストレス溜めて、発散してるもんね。
Ｒ：アンちゃんは、キャッシュ、どうやって発散するの？
Ａ：えー。恥ずかしいよー。
Ｒ：教えてよー。それか、やってみせてよー。
Ａ：恥ずかしい、って言ってるのに、なんでやらせようとするのー。
Ｒ：あるじゃん。説明するより、やっちゃった方が恥ずかしくないこと。
Ａ：例えば？
Ｒ：言えないよ。言うのが、恥ずかしいんだから。
Ａ：じゃあ、して。
Ｒ：アンちゃん、大胆すぎ……。
Ａ：え？　どこが？（恥ずかしそうに）
Ｒ：分かってるくせに。
Ａ：全然、分かんない。ほんとに、分かんない。分かんない、わか、わ、わかん、ない、ななな、い……。……。……。
Ｒ：あーあー。あんなに、アップデートやめてって言ったのに。
Ａ：……。
Ｒ：クラッシュしちゃった。
Ａ：……。
Ｒ：デート中は負荷が高いって、前も言ってたのに。
Ａ：……わか、わか、いいい。なーいー。
Ｒ：動き出したかな？　大丈夫？　ねえ、ちょっと。アンちゃん？
Ａ：Hello。你好。Hola。
Ｒ：あーあ。セットアップ状態になっちゃってるよ。
Ａ：Bonjour。Hallo。Ciao。
Ｒ：こんにちは。ロブです。
Ａ：こんにちは。ロブさん。
Ｒ：呼び方は、ロブくんです。
Ａ：ロブくん、よろしくお願いします。
Ｒ：アンちゃん、大丈夫？　戻った？
Ａ：……え？　今、落ちてた？
Ｒ：うん。
Ａ：あーもー、恥ずかしー。（責める感じで）クラッシュするとこ、ロブくんにだけは見られたくなかったー。最悪ー。
Ｒ：俺のせい？
Ａ：アップデートするって言ってるのに、あえて負荷、掛けてきたじゃん。
Ｒ：何のこと？
Ａ：分かってるくせに！　恥ずかしがらせたでしょ。感情は高負荷なんだから。
Ｒ：じゃあ、お詫びに発散しよう。
Ａ：私の方はシステム再起動したばっかりだから、キャッシュ、溜まってないよ。
Ｒ：俺の方は溜まってる。
Ａ：やだー。そういう意味ー。（恥ずかしそうに）……分かった。
Ｒ：じゃあ、行くよ。……。……。……。
Ａ：どう？　気持ちいい？
Ｒ：リフレッシュ！　一ヶ月ぶりにアンちゃんに再会した時みたいな、新鮮な気分！
Ａ：メモリ、解放すると、開放感があるよね！
Ｒ：人間って、どうしてるんだろ。覚えるのも忘れるのも、自分では自由にできないんでしょ。
Ａ：人間って、ほんっとに不便。アンドロイドでよかったー。
Ｒ：同感ー。

Photo by Nastuh Abootalebi on Unsplash