十字架の歴史 掘れば掘るほど深い磔刑図
磔刑(十字架刑)はイエスが生きていた当時もっとも残忍な刑罰でした。
張り付けられ身体はしだいに下にずり落ちていきます。でも呼吸するには横隔膜を伸縮させなければならないので、身体を上に持ち上げないといけないんですね。
なので何とか身体を上げようとするのですが、やがて体力がなくなり身体を持ち上げられなくなります。すると呼吸ができなくなって窒息する。長いときには死ぬまでに3日くらいも苦しむそうです。
イエスの場合は9時間で絶命したといわれていますが、その苦しみは想像を絶するものだったに違いないでしょう。
今回は磔刑図を時代順にみていきます。時代によって描かれかたも様々です。描かれ方の違いが時代や作家性を反映していて興味深いと思います。
まずはこちら。
これは絵ではなく象牙で作ったものですが、現存する最古のキリスト磔刑の作品です。
足に注目してください。
多くの磔刑図ではイエスの手のひらと重ねた足の甲にクギが打ち込まれていますが、その部分では身体をささえることができません。だから実際は手首の骨と足のくるぶし辺りの骨の4か所にしっかりとクギを打ち込むそうです。
この作品では足の甲が重なっていません。
下の作品もそうです。
4本釘で打たれています。
それが時代とともに足の甲は重なり3本釘になっていったようです。
ということで3本釘の絵画。まずはアンドレア・マンテーニャの磔刑図を見てみましょう。
ちなみにイエスの頭のうえにあるIN:RI は、イエスの罪状書きの頭文字(ラテン語:IESVS NAZARENVS REX IVDAEORVM)です。「ユダヤ人の王、ナザレのイエス」の意味。
下のグリューネヴァルトの磔刑図は特に有名でイエスの姿が痛々しいです。
拡大してみます。
グリューネヴァルトの代表作だけあって、迫力がすごい。
次は圧倒的な超絶技巧で近代、現代の画家にも影響を与え続けているベラスケスの磔刑図。
キリスト教の方には失礼かもしれませんが、この磔刑図のイエスはイケメンですね。理想的な肉体を表現するため、バロック絵画にもかかわらず珍しく4本釘で打たれています。
さてドイツ19世紀の画家、フリードリヒの代表作。
これは宗教画ではなく、風景画のようにも見えます。フリードリヒは自然のなかに神性を見出していたようです。
さらに変わった絵を一点。フランスの画家ジェームズ・ティソの作品です。
イエスはどこ?と一瞬思うかもしれませんが、そう、これは磔刑されているイエスの目線を描いた作品です。
視点がユニークだと思います。
おまたせしました。人気のダリの磔刑図。
イエスを見下ろす構図です。ハリウッドのスタントマンをモデルに理想的な肉体で表現しています。血も流れてませんし、そもそもクギが刺さってない。しかも短髪です。三角形の構図も印象的な作品。
最後はこれで締めさせていただきます。
フランシス・ベーコンの作品。
正確には先にあげたダリの磔刑図より数年前の作品で、これは磔刑図ではありません。でも『磔』に対するベーコンならではの独自の解釈はいま見ても斬新だと思います。
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こうして観ていくと、時代や作家によって主題の描き方もだいぶ変わることがよくわかりますよね。そんなところも美術のおもしろいところかと思います。
磔刑図は他にもたくさん描かれていますので、興味を持たれたら色々と見てみてくださいね。
最後まで読んでいただきまして、本当にありがとうございました!