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『人を動かす』と学校教育
名著『人を動かす』を読んだことはあるでしょうか?この本は1936年にアメリカのデール・カーネギーによって出版されました。原題は
How to Win Friends and Influence People、“友を得、他人に影響を与える方法”
です。
今回は、カーネギーの『人を動かす』と教育のつながりについて考えていきます。
教師は子どもに変容を促していくプロとも言えます。しかし私も含め、どのようにして行動を変容させることができるかを知っている方は、以外にも少ないのではないでしょうか。
主体的に学ぶことや自治的な学級づくり、自由進度学習、学び合いなどに共通するのは、「子どもが自ら動き出す」ことです。しかし、教師が関せずして、そのような姿は導びこうとするとどうでしょうか。経験のある方ならわかるかと思いますが、自由すぎて軸がない状態に陥るでしょう。
姿勢は崩れ、机の上が整理されず、学習とは関係のないことをしだす…。そして、指導するという悪循環です。
そこで、カーネギーの『人を動かす』です。きっと上記の困りを解決してくれるヒントが見つかります。
今回は「人を動かす三原則」を取り上げます。
①盗人にも五分の理を認める
言葉通り捉えれば、泥棒をしてしまうような人にも、事情があることを認識しておくということになります。
でも教室の場面で、こんなことはありませんか?
・学習中に関係のないことを言う
・言うことを聞かない
・子どもを叩いてしまう
・嘘をつく
とても気になってしまいますよね。皆さんだったら、どのように対応しますか?
こんな状態で、すぐに烈火のごとく怒ることで子どもを動かそうとしてはいけないことは、ご存知な方は多いですね。脳科学的な知見から話すと、怒られると脳は萎縮し、子どもの言語発達に影響が出ます。すると、コミュニケーション力の発達も遅れていきます。また、発達の凸凹がある子どもは褒め言葉よりも叱られる言葉の方が強く残る傾向にあり、これに慣れきってしまうと脳へのさらなる悪影響が予想されます。
(下のリンクを参照)
話を『人を動かす』に戻します。カーネギーはどんなに言いたいことや不満があっても、
批判も非難もしない。苦情も言わない。
『人を動かす』では、多くの具体例が紹介されています。
アメリカの大統領として有名なリンカーンの座右の銘は「人を裁くな。人の裁きを受けるのが嫌なら」だそうです。しかし、もともとは口の立つ弁護士でした。人の粗探しをし、それを嘲笑った手紙や詩を書き、人目に付くように道端に置くようなマネをする人物でした。驚きですね。
しかし、この手紙に悪く書かれた本人は怒り心頭です。なんとリンカーンに決闘を申し込みました。幸いお互いの介添人が間に入り、事なきを得ました。しかしリンカーンは相当肝を冷やしたそうです。このことから、人のことを悪く言うと自分が恨まれるという教訓を得ました。
ついつい子どもの気になることを口にしてしまいますよね。どのように変容を促していくのか、教師の力量が問われるということですね。
②重要感を持たせる
教員採用試験でも学んだデューイによれば、人間の持つ最も根強い欲求は
「重要人物たらんとする欲求」だそうです。
また、フロイトは人間のあらゆる行動の動機は二つと説明しています。
・性の衝動
・偉くなりたいという願望(今回のポイント)
デューイとフロイトの主張を考えると、子どもの様子にたくさん当てはまるのではないでしょうか?
〇体験活動で「お手本を見せてくれる人?」と聞くと、授業よりも多く手が上がる
〇ご飯を完食できたときは、「全部食べたよ!」と陽気に話しかけてくる
〇子どもが「ねえねえ」と所構わず声をかける
〇100点を取ると喜んで自慢をする
〇突飛な発言をして注目を集める
これらは、自分が周囲にとって重要であることを感じるための行動とも見てとれます。最近の言葉で言うなら、「承認欲求」になるでしょう。
カーネギーが挙げた例ではありませんが、重要感を持たせるエピソードを紹介します。
松下幸之助の電球の話です。ある時、電球をみがいている社員を見つけた松下はこのように言ったそうです。(この時の社員は、つまらなさそうにしていたそうです。)
この電球は
どこで光っているか知っているか?
子供たちが絵本を読んでいる。
すると、外が暗くなる。
家の中はもっと暗くなる。
そうなれば、 どんな物語も途中で閉じなあかん。
でもな、あんたがみがいている 電球一個あるだけで、
子供たちのドラマは続行や。
あんたは電球を みがいているんやないで。
子供たちの夢をみがいてるんや。
子供たちの笑い声が聞こえてこんか?
物作りはな、物を作ってはあかん。
物の先にある笑顔を想像できんかったら、
物を作ったらあかんのやで。
子供たちの夢のために、
日本中、世界中にこの電球を灯そうや。
この後、社員は精一杯頑張りだしたそうです。松下幸之助の言葉の中に、社員への期待が込められています。ここに「相手に重要感を持たせる」というポイントがあります。加えて、なぜ電球を磨くのかを語る姿も素敵ですね。
重要感+目的をセットにすると、子どもにも響くかもしれませんね。
率直であること。誠実であること。これらを踏まえた評価をすること。が大事です。
③人の立場に身を置く
イギリスの元首相ロイド・ジョージ曰く
「釣り針には魚の好物をつけるに限る。」
このような例が冒頭で紹介されています。人を動かす際に、軸を相手に設定します。
結局のところ自分の都合ばかり押し付けてしまうと、相手は動きにくくなるとのことです。恐らく、反抗心が生まれることや納得感がないことから考えられます。
本書の中で紹介されている例をもう1つ挙げます。アメリカの心理学者ハリー・オーヴァストリーによれば、
人間の行動は、心の中の欲求から生まれる。だから、人を動かす最善の法は、まず、相手の心の中に強い欲求を起こさせることである。
教室を想像してください。子どもに強い欲求を起こさせられているでしょうか?強い欲求を起こすアイデアはいくつありますか?
この点においては、近年の「授業デザイン」に重なります。どのようにして学ぶかを考える際に導入や教師の語り、教材を魅力的なものにしていくことで、子どもたちが見通しをもって学ぶことができます。
おわりに
いかがだったでしょうか?ここまでお読みになって、疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。
「そんなことを言ったって、毅然と叱らなければいけないときだってあるよ。」
→もちろんです。人として間違っている行動には、指導をして正すように努めます。ここで問題にしたいのは、叱るか叱らないかではありません。「人を動かす叱り方(話し方、接し方でもいいですね)」です。叱っても相手の心に響かなければ、問題行動等は減っていきません。
冒頭にも話しましたが、「子どもが自ら動き出す」ための教師の在り方についてを考えていくことに焦点を当てています。次回の投稿では、実際の教室場面でどうすればいいのか考察します。
ありがとうございました!
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