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読書には風がある

乱読する時期もあれば、ぱたりと本を手にしなくなる時期もある。
また思わぬジャンルに流され、すごい本や著者に出会い、新しい世界が見えてくる。
まるで風に飛ばされる気球のようだ。

昨今の風に流され、今は探検ノンフィクションにどっぷり浸っている。
角幡唯介→高野秀行→服部文祥→石川直樹・・・
この先どこへ飛んで行くのだろうか。
冒険の探究心や人間洞察の力で描かれた作品は未知の世界へ導き、新しい知見を与えてくれる。

最後の冒険家 著者:石川直樹』を読んだ。
熱気球冒険で数々の記録を樹立し、2008年に太平洋横断中に消息を絶った神田道夫。
その生涯の軌跡を追うノンフィクション作品だ。
2004年にも太平洋横断に挑戦したが、その時の副操縦士を務めたのが著者の石川直樹である。
石川は気球操縦士の資格を取り、神田と太平洋横断に挑むことになった。
気球の操縦は「風まかせ」である。自由に方向を変えることができず、唯一できるのは上昇・下降のコントロールだけである。
上空にはいろいろな風が吹き、「高度」「場所」「地形」「時間」によってスピードも異なってくる。
バーナーで球皮内の空気の温度を変え、風に乗り、風を探し、目的地に向かうのだ。
高度1万メートルのジェット気流に乗れば、時速は200km以上になり60時間ほどで太平洋を横断できる。
しかし、計画通りには進まない。
気球にトラブルが発生し横断を断念。(燃料不足)
救助を要請し、海面ギリギリを飛行しながら救助を待つことにした。
ところが、気球の操縦がうまくいかず太平洋のど真ん中に着水し漂流がはじまるのである。
ここからの二人の苦しみや緊迫感は本書で味わってもらいたい。
その後、コンテナ船に発見され無事救助される。

今回の計画は失敗に終わったが、神田の中では再挑戦を画策していた。
気球の設計、装備などの改善を加えていたが、新たな副操縦士が計画から降りてしまう。
再び石川に声がかかったが、恐怖のほうが先に立ち再度の同乗を断った。
神田は目標を立てたらそれに向かって脇目もふらずに突進するタイプである。
結局、自動操縦装置を導入し、太平洋横断を単独でおこなうことを決心した。
2008年、この冒険が神田の最後の冒険となり、2月1日を最後に連絡が取れなくなった。

本書では神田道夫、そして気球との出会いや奥様へのインタビューなど。
一人の冒険家のストーリーを通じ、冒険を深く考察した一冊だ。

気球は自然現象にはどうしても逆らえない乗り物だ。
読書も似たような現象だと思う。
本書は久しぶりに一気読みした一冊である。
まるでジェット気流のように引き込まれる内容だった。


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