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19.生き残る大学

0.生き残る大学に就職しよう

大学教員を目指す上でどうしたら採用されるかが最大の関心ごとかもしれないが、大学をめぐる環境が厳しい時代、せっかく就職しても生き残れない大学に入ってしまったのではどうしようもない。募集停止に陥った大学の教員が次の職を探そうとしても、ある意味新規採用より難しいという実態はよく目にする。大都会の有名大学なら心配もないだろうが、小規模私大や地方の中小私大では、就職を希望する側も生き残れる大学を見極めなければならない。今回はその見極め方の4つのポイントを示す。

1.地域において存在価値のある大学になるために教育改革を進めているかどうか

詳しくは7月15日付日経朝刊に掲載された元同僚の山本啓一先生の論考を見ていただきたい。地域経済の高付加価値化・生産性向上に寄与する人材を輩出するためには、今まで連綿と続いてきた一般的な大学教育(大教室での一方通行の授業など)ではまったく不十分だ。初年次教育やゼミだけでなく専門課程でもいかにアクティブな教育でアクティブな学生を育てているかが重要だ(アメリカの大学では様々な授業手法が研究され実際に取り入れられている)。新しい手法を取り入れて授業を改革するファカルティ・ディベロプメント研修などが全学的に盛んにおこなわれていれば一つの目安となる。

#日経COMEMO #NIKKEI

2.大学が「経営」されているか

大学の研究・教育に対するニーズが変わりつつあるなかで、変化に対応するために変っていく。これが経営である。創業者の立派な教育理念があるとしても、それを実現するためには(民間企業でいえば)事業ドメインを変える必要があるかもしれない。民間企業なら事業のスクラップアンドビルトをするかもしれないが、規制業種である大学は学部を新設するにも文科省の認可が必要である。
とはいえ、将来を見据えて新学部や新研究所をつくったりそのための設備投資をしたりしているかどうか、そのために経営陣がしっかり経営しているかどうかを見極めるのは重要である。例えば学部を廃止する場合、あるいは大学同士が合併する場合(M&Aなど)、教授会が抵抗勢力になることがある。教授会の力が強く改革を進められない大学の経営力は弱い。多くの場合教授は経営者ではないので現状維持を志向するからである。
経営陣によるガバナンスが効いていて変化に迅速に(それでも民間企業に比べれば時間がかかるが)対応できているかどうかをしっかり観察しなければならない(内部にいる教員の意見を聞いても役に立たないことが多い)。

3.財務状況のポイント

学生の就活に当たっては応募しようとする企業の財務状況を知ることが大切だと教えている。しかし大学教員で自分の大学(学校法人)の財務状況に興味を持っている人はほとんどいない。実務家教員応募者も応募する大学の財務状況まで調べる人もほとんどいない。
しかし最低限チェックしてほしいところがある。それは学校法人の財務諸表の貸借対照表である。その中の資産の部の固定資産の中の特定資産という項目を見てほしい。固定資産というと大学の土地や建物のことだが、特定資産とは固定資産になる前にためている引当金の事である。つまり上記での新たな投資を行うために自己資金として積んであるお金のことで、これは学校法人会計独特の制度である。
ここに十分お金があれば大学はなかなかつぶれない。学生がゼロになって授業料が入ってこなくても取り崩して何年持つか計算できる。実際にいくらあればいいのだろうか。私の個人的な感覚ではひとけた億円は危ない。二けた億円かできれば三けた億円あれば安泰である。ちなみに学校法人慶應義塾の特定資産は1,557億円である。
大学はこのお金を運用に回して少しでも収入を補完しようとしている。昔、ある仏教系の有名大学で運用に失敗して数百億円の損を出したことがある。その程度の損ではびくともしないのが大手の大学である。

4.「経営者」は「教育者」か

昔、ある民間企業の経営者から「大学の経営ほど簡単なものはない」と言われたことがある。確かによほどへまをしない限り毎年必ず授業料というキャッシュが先に入ってくるのだから資金繰りの心配がほとんどない(例外はひたすら拡大志向のモリカケのカケのようなところ)。まあ、確かに規制業種で安定しているので、民間企業のようにいつ売り上げがゼロになるかもしれないとか取引先が倒産して売掛を取りはぐれる、というような緊張感はない(しかし成長させるのは民間企業以上に困難である)。様々な規制の網をかける文科省の考えは、学校法人が突然倒産して学生が路頭に迷うことをいかに防ぐか、にある。
では、経営者としての資質としては何が必要か。それは「教育者」ということである。教育者と言うのは福沢諭吉や新島襄、津田梅子のような人たちである。理念・ビジョン・使命感を持ち、多くの人たちを巻き込んで協力者にし、資金を集め、土地建物を購入し、教師を集めて学園を開く。そのような教育者の資質がある経営者が必要である。
学校法人の経営者は理事長、学園長、総長などいろいろな名称があるがとにかく学長ではなく(兼ねる場合もあるが)学校法人のトップである。その出自は創立者の三代目でも教授から上がった人でも職員から上がった人でも、外から連れてきたノーベル賞学者でも何でもいいい。大学の経営者には教育者としてのモチベーションが必要、ということだ。応募する際は学長ではなく理事長の人物を見極めよう。

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