伝えるボードゲームの作り方。プロジェクト企画からルール設計まで、全部解説します。
こんにちは、ボードゲームクリエイターの山本龍之介です。普段は、企業研修用のボードゲームを開発したり、企業オリジナルのボードゲームを作ったりしています。
そのような活動をしていると、「ボードゲームって自分で作れるの?」ってよく聞かれます。たしかに、ボードゲームって複雑そうだし、めっちゃ数学的そうです。でも、実はボードゲームって自分で作れます!
ぼくが普段作っているのは”ただの遊び道具”としてのボードゲームではなく、何を伝えるためのボードゲーム「メディアボードゲーム」です。(ぼくは”ただの遊び道具”としてのボードゲームも作りますし、むしろそちらの方が好きです。)
子どもはボードゲームで勉強し、大人も哲学やビジネスなど難しいことをボードゲームで学習する。企業はサービスやビジョンをゲームで社内や世界に発信する。そんなことが可能なのが「メディアボードゲーム」なのです。
本noteでは、いつも制作ワークショップで使用するスライドをベースにメディアボードゲームの作り方を、企画からルール設計まで、解説します。
1、導入編…メディアボードゲームの強みって?
①ゲーム本来の「楽しさ」
ゲームとは、「楽しさ」をデザインとして表現する手法です。そして「楽しさ」とは、人のモチベーションを根本から動かす力なのです。
ボードゲームにすると、その内容についてもっと知りたくなったり、その内容をもっと好きになってくれたりします。
②合理的な「学び」
ゲームはそもそも、「学び」として優秀な媒体なのです。それは、物事の仕組みを仕組みのまま理解できるからです。じゃんけんも言葉のままでは、「グーはチョキに勝って…」など、その仕組みは理解しにくいのですが、ゲームにしてやってみると、その三すくみの状態をすぐ理解できるでしょう。
このように、仕組みが複雑な内容を伝わりやすくするのもボードゲームの強みです。
③失われがちな「会話」
ボードゲームの最後の特徴は「コミュニケーション」です。これまでのメディアは、1人で情報を受け取るものでした。
しかし、ボードゲームでは、複数人でその内容について考えるので、いろいろな人の立場で、より立体的に物事を捉えることができるのです。
以上のことをまとめると、メディアボードゲームには「幸せなコミュニティを作る」という強みがあります。複数人で、楽しく何かについて知ったり疑似体験できたりする。
それでは、そんなメディアボードゲームの作り方を見てきましょう!
2、企画編…コンセプトを作る。
ー①プロジェクト設計(どのような体制で作るの?)
本noteの読者には、関係ない場合が多いですが、依頼側と制作側の体制は始めに決めておきます。今回関係しそうな内容でいうとそのボードゲームの活用方法決めです。
例えば企業でメディアボードゲームを使う場合、以下の4通りが考えられます。
◯採用…ゲームへの取り組み方で採用にマッチする人材を探す。
◯研修…自社のビジョンやビジネスモデルの社員教育に。
◯PR…自社サービスを多くの人に知ってもらうキッカケに。
◯サービス…作ったボードゲーム自体を一般や企業に販売する。
他にも、「学校の教材として使いたい。」「やっていることの内容をわかりやすく伝えたい。」などが考えられます。
どのような目的で、どのようにビジネスにしてくのかを先に設計していると、作っている時に社会との関わりを悩まずにプロジェクトをすすめることができます。
ー②テーマ(伝えたい内容の深堀り)
ここが最初の段階で1番重要になってくるのですが、しっかり伝えたい内容に向き合うことが重要です。
例えば、「防災ゲームを作りたい。」と思ったとき、
「防災と一口にいっても、災害対策や発生時対応に分けられるな」とか
「子供に防災してほしいけど、彼らには防災グッズの説明より、とっさにどういう判断を取ればいいかを学んでもらったほうが効果的だ」
など、そもそも内容の何を伝えたいのかや、そのテーマの醍醐味・本質を丁寧に分析します。
次の工程で行うルールニクズケの重要な骨格になるので、しっかり考えましょう。
ー③目的(ゲームプレイ後にどうなってほしいのか)
この目的をイメージできるとゲームの全体像もイメージできてきます。
例えば、「防災ボードゲーム」なら、
「子どもたちが、地震が起こったときとっさに反応できるようになる」
「用意しておくべき防災グッズが理解できる」
など、そのゲームが終わった後にどのような状態になってほしいかを決めます。
ここで注意ですが、ゲームで伝えたいことは、かなり絞り込みましょう。はじめは、なんでも学べるように情報を詰め込みたくなりますが、ゲーム設計がの時収拾がつかなくなります。心苦しいですが、はじめは伝えたいことを一つだけにしてみましょう。
ー④プレーヤー(遊ぶシチュエーション)
どのような人が、どのような状況でそのゲームを遊ぶのかを考えましょう。
例えば、同じように「防災ボードゲーム」なら、
「小学校低学年の家庭で、親子が食事後に」
「地元の公民館で、地域の方が集会で勉強会として」
など、具体的にイメージできるとよりよいです。
なかなかイメージしにくいことがあるかと思いますが、プレーヤーの会話や表情をイメージできるとよりよいゲームになります。
3、概要編…おおまかなゲームの外観を整える。
◯時間…プレイ時間です。前の工程で考えたシチュエーションをもとにこのゲームのプレイ時間を考えましょう。
◯人数…プレイ人数です。1人でもプレイ可能な方がいいのか、大人数にも対応している方がいいのか。これもシチュエーションをもとに考えましょう。
◯対象年齢…何歳から何歳まで遊ぶことができるかを考えます。小さい子ども向けなら、ブラフ(嘘をつく)のルールは厳しかったり、年配の方向けなら、デザインで工夫が必要になったりします。
◯価格…販売価格やこちらがどこまでコストをかけられるを考えます。プロジェクト設計に基づいて、どこまでお金をかけられる決定します。
◯デザイン性…デザインの方向性です。とにかくおしゃれなデザインがいいのか、視認性を重視したデザインがいいのかを考えます。
◯コンポーネント…ゲームの内容物のことです。主に「サイズ感」を考えます。持ち運びを考えているのか、据え置きなのか。防水の必要があるのか。などを考えます。
4、ルール設計編…ルールを編集する。
(↑ここを4つの”S”できれいにまとめあげたのはほんとに自分エライと思います。)
ルール作りは以下の4項目を考えていきましょう。
ここからは、全ての項目を行ったり来たりしながら、同時に、複合的にゲームルールを組み立てていきます。
ーSystem(ルールの種類を考える)
まず初めに、「ルールメカニクス」の手札を揃えましょう。
「ルールメカニクス」とは、ゲームルールを構成するルールシステムのことです。例えば、すごろくは、「マス目の上を、サイコロの出目だけコマをで移動させる」というルールメカニクスです。
上の図のように、ボードゲームには数多くのルールメカニクスが存在します。各メカニクスがどのような効果やプレーヤー心理を誘起するかを認識できると、(スピード系は盛り上がり、パズル系はゆっくり考えるなど)ルールを組み立てるときに役に立ちます。
上の図は、ルールメカニクスのほんの一部です。こちらのリンクからゲームメカニクスを採集したり、気になったゲームのメカニクスを調べたりできるので、ぜひ参考にしてみてください。
ーSuitable(テーマとルールの適当性)
「伝えたいこと」と「ルールメカニクス」が不自然感なく合わさっているかを考えます。
例えば、「防災ボードゲーム」で「とっさに地震が起こった時の対応を覚えてほしいゲーム」というコンセプトがあったとします。
その時は、ポーカーのような「役を揃えるゲーム」よりも、スピードのような「めくったカードにすぐに反応できるかを競うスピード系のゲーム」のほうがマッチしていると思いせんか?
このように、「企画編:③テーマ」ですでに考えた、伝えたいことの本質とルールがそれっぽく接続させているのかを考えましょう。
ーSpice(面白さへの一捻り)
ここでは、ルールの全体調整として、どのような要素があったらよりゲームが楽しくなるかを考えます。
◯仮説検証…自分の戦略が思い通りになり、いい結果を生むととても嬉しいですよね。逆に、しっかり戦略を立てたのに、よくわからない運要素で負けてしまうと、何かつまらいですよね。このように、プレーヤーが考えたことがそれ相応の結果となって反映させるような仕組みが入れられると面白いゲームになります。
◯もう一回…またプレイしたくなる要素です。後少しで勝てたのに…という感情を引き出したり、そもそもゲームの盤面や状況がゲームによって毎回変化するような仕組みを入れてみましょう。
◯干渉…いいゲームは、他のプレーヤーが行動しているときもハラハラしてその打ち手を観察したりします。さらに、カタンのようにそれを仕組みとして埋め込んでしまうのもいいでしょう。
◯逆転…最後まで展開がわからないハラハラ要素です。得点の加算の仕方や積み上がり式で得点が伸びてく方法などで、工夫できます。
◯親しみ…前項のSuitableとも少しかぶりますが、既視感のある状況を作り出せるとゲームは楽しくなります。ケーキの切り分けと分配のジレンマや、ゴキブリ退治のハラハラ感などをゲームで体感できると楽しいですよね。
◯ストーリー…少しおかしな設定です。キザなプロポーズや、大企業の社長気分など、一度はやってみたいけど、普段はできない設定などで、盛り上がることができます。
ーScene(ゲームの全体風景)
最後にこれまでの3つの”S”を支えるように考えなければならないのが、ゲームをプレイしている風景です。
テーブルの上のカードやボードの配置、プレーヤーの手の動きや感情、表情など、作りだしたい世界観をとにかくイメージします。いわば、料理の塩コショウのような役割です。
全体を俯瞰して、当初の伝えたいことが伝わっているのか、それによってプレーヤーは楽しんでいるのか。そんな観点を持ちながらルールの編集を行っていきます。
最終的に、以下の情報をまとめられたらゲームルールは完成です。
5、仕上げ編…後は形にするだけ。
ここからはルールを形にしていく作業です。この部分は多くのネット記事で語られているので、ざっと説明して割愛しますが、大体の流れは以下の通りです。
◯ルール編集を行いながらテストプレイ
100均ショップなどで売っているコマやカードで代用しながら、テストプレイを重ねます。
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◯デザインを当てていく
デザイナーさんに外注するかして、デザインを行っていきましょう。カードを重ねて持って見えるマークの位置など、ゲームならではの注意点もあります。
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◯アイテムを発注する
ボードゲーム専用の印刷所があります。箱やカードだけなら、普通の印刷所でも対応してくれたりします。
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◯プレーヤーのもとに届ける
最初に決めた方法でプレーヤーまで届けましょう。販売や、自社のみで提供などが考えられます。
6、最後に。
いかがでしたか?メディアボードゲームとは、これまであまり取り沙汰されてこなかった概念です。しかし、物事を伝えるためのボードゲームは今以上にもっと可能性があると思っています。
このnoteを読んで、一人でも多くの人が表現方法としてボードゲームという選択肢があると思っていただけたら幸いです。
そして、「このワークショップをやってほしい!」「メディアボードゲームを作ってみたい…!でもやっぱり難しい…!」ということでしたら、お声がけいただければお力添えができるかもしれません。その際は、ぜひお気軽にご相談ください。
e-mail : yamamoto@nexera.jp
それでは皆さん、より良いボードゲームライフを!