【2024年創作大賞応募用】【短編小説】傘花火 ~初夏の夜に咲く恋の花~ Chapter-3
※この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
誰?
海斗が車も出してくれることになった。海外製のワンボックスでかなり広い。沙羅は馴染みの無い操作感の車に圧倒されながら、海斗は何気にお金持ちなんだなと思った。普段はふざけているけど、凄くいい家柄なのかもしれない。
後ろに乗ったのは沙羅と花蓮、それと翔。沙羅はコミュ障気味で翔は無口だから、花蓮のワンマンライブ状態だったが、二人には好都合だった。
一方、運転席と助手席は夫婦漫才になっていた。この二人はケンカしているのか、じゃれあっているのか、本当にわからないが、沙羅は意外に気が合うのかもしれないと思っていた。微笑ましく見守る母親みたいな心境だった。
「そういえば、翔は彼女とかいるの?今日のことは伝えてきたの?」
花蓮が無邪気に翔に聞いた。
花蓮もくるみと負けず劣らず活発な娘だった。ちょっと違うのは、くるみより女性らしい服装で、ショートボブの髪がきれいな娘だった。くるみはショートカットでクリっとした黒目が特徴的な、短パンTシャツが似合う所謂体育会系の雰囲気だった。
外見は全く正反対だが、花蓮の中身はくるみに近いと沙羅は思っていた。最初は花蓮の外見と性格が一致せず、戸惑ったこともあったが、いい加減慣れて来た。
沙羅とは対照的に翔は慣れていないようだった。どう答えたら正解なのかわからず、言葉がすぐに出てこない。正解など無いのだが。
「い、いや、彼女イナイ」
慌てすぎて、変な片言になって答える翔。
「ふ~ん、モテそうなのになぁ」
花蓮が不服そうに言った。
「んじゃさ、好きな人はいるの?」
「な、な、なん?」
翔がとんでもなく焦っている。
「たまたま恋の話になったから、単純に聞いてみただけよ?その慌てぶりは、アヤシイ!」
花蓮はそう言って翔の顔を覗き込んだ。うつむいた翔は、更にそっぽをむいてしまった。
「かんべんしてやれよ~、翔は口下手なんだから~」
海斗が助け舟を出した。女の子を口説けるぐらい話せるようになれ、と翔に言っていたが、すぐに出来るわけがないので、なにかとフォローしていた。
「だって気になるじゃん。あ、海斗はいないの?彼女とか」
花蓮が矛先を海斗に向ける。
「んなもん居たら、お前らと一緒にいないだろ」
笑いながら海斗が迎撃する。
「あ、それもそうね。じゃあ、みんなフリーってことかぁ」
花蓮が言ったとたん、微妙な空気が車内に充満し沈黙した。
「ちょっと休憩しない?」
くるみが察したのか、トイレのためにSAに入ることにした。
車の外に出たとたん、辺り一面が一瞬真っ白に見えるくらい、真夏の太陽が強烈に照り付けていた。梅雨だというのに容赦がない。もっとも、週間天気予報はチェックして来たのだから当たり前といえば当たり前だ。
「誰だよ!晴れ男、晴れ女は!パワー発揮しすぎ!」
誰に向けたものでもなく、海斗はうんざりしたように言った。
「誰?本当に・・・」
沙羅は思わず口に出した。
「なんか言った?」
「ううん、何でもない」
食いついてきたくるみを誤魔化し、沙羅はトイレへ向かった。
Continued in Chapter-4
目次に戻る
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?