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三途の侍、蛇を撃つ 2話【創作大賞2024 漫画原作部門】

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しおり「へ、蛇!?」

突然現れた大蛇を目にして、しおりは目を丸くして驚いて悲鳴を上げて立ち上がる。
しおりは手鏡をギュッと抱き抱えていた。
大蛇はギロリとしおりを睨む。

しおり「う、動けない……!」

動けないしおりを標的に大きな口で喰おうとする。

侍「ッ!」
しおり「キャッ!」
しおりを後ろに押し退け、侍が刀を大蛇の牙に当て突進を抑える。

侍「おのれ! 蛇め!
 とうとうここも嗅ぎつけたか!」

しおり(! 動ける……!?)

手をグーパーして動けるようになることを確かめる。
しおりは大蛇を見ようとして、

侍「目を合わせるな!
 動けなくなるぞ!」

しおり「!?」
しおりは思わず下を向く。

しおり「で、でもどうすれば」

侍「天幕にバズーカなるものがある!」

テントに立て掛けられている近代兵器。
バズーカに焦点が合う。

侍「拙者は動けん!
 しおりが撃ってくれ」
しおり「わ、私が!?」

目を丸くして自分を指差すしおり。

しおり「む、無理無理無理無理!
 バズーカなんて触ったこともないし!」

侍「だが、このままでは二人とも喰われるぞ!」

しおり「で、でも……」

侍「やる前から諦めるな!」

その発言にドキリとするしおり。
侍にはその発言に他意はない。

侍「できなければしおりだけでも逃げろ!」

しおり「!!」

侍「現世に戻ればこいつは追ってこぬ!
 ほとぼりが冷めるまで現世に避難しろ」

しおり「で、でもそれじゃあムラさんが!」

侍「案ずるな!
 拙者はこいつと千年の付き合い!
 そう簡単にやられる玉ではないわ!」

そこで侍の刀が錆びつき壊れる。

侍「!」

壊れたことで侍の体勢は前のめりになる。
大蛇は自分の身体を鞭のようにしならし――、

侍「ゴフッ!!」
侍を横薙ぎにする。
侍はテントにぶつかるように吹っ飛ぶ。

しおり「ムラさん!」

大蛇「シュルルルル」

しおり「ハッ……」

大蛇は舌を出して、しおりを見る。
しおりは思わず大蛇を見てしまう。

しおり「あ……」(しまった…ッ!)

動けなくなったしおりは大きく目を見開く。
大蛇はニヤリとした後に大きく口を開く。
大きな口の中に手榴弾が入る。
大蛇は口を閉じる。

口の中で手榴弾が爆発する。
大蛇「ッ!!!!」
しおり「キャッ!」

爆風でしおりの髪が靡き、腕でガードして目を閉じる。
崩壊したテントの中で立つ侍。
別の刀を持ち、もう片方で手榴弾を二個持っていた。

大蛇「シャアアアアアアア!!!」

大蛇は侍の方を睨みつけ、怒りの表情で吠える。

しおり「ム、ムラさん!」

侍「退け!」

しおり「で、でも……!」

侍「退けぇぇえ!!!」

殺気立った表情でしおりを睨みつける。
しおりは身体が強張る。

しおり「…………」
侍の言う通りにしおりは後ろ向きに立ち上がる。

大蛇「!!」
大蛇は動いたしおりをまた睨みつける。

大蛇の行動を見た侍は口で手榴弾の安全ピンを外し、投げつける。
大蛇の身体に当たると爆発する。

しおり「!!!?」
しおりはその爆風に乗ったついでに駆け出した。
大蛇の前に現れる侍。近代兵器を背負っている。

侍「互いの魂砕くまで
 貴様の相手は拙者だ!
 千年の決着…今つけようぞ!」


三途の川近くの林道を走るしおり。
後ろで爆撃の音が聞こえる。
後ろが気になるが、ブンブンと首を振る。

しおり(仕方がない! 仕方がないじゃん!
 戦ったことないし
 バズーカなんて撃ったことないし!
 素人が助けたって足手まといだって!
 撃つより逃げた方がマシだって!)

※※※
侍「やる前から諦めるな!」
※※※

侍の言葉を思い出し、しおりの足が止まる。
しおり「諦めるよ……そりゃあ」

★★★

しおりは幼少の時を思い出す。

家の居間にあったテレビにくぎ付けになる6歳の頃。
しおり「わぁぁあ」
テレビにはアイドルがライブしている様子が映っている。

しおり「おかあさん! わたし、あいどるになる!」
母「まぁ。でもアイドルは大変よ」
しおり「たいへん……?」

★★★

自分の部屋で、スマホを見てアイドルのことを調べるしおり。
しおり「なるほど……
 いまはあいどるせんごくじだい!
 このままじゃごうかくできない!
 あいどるになるにはしっかりじゅんびしなきゃ!」

★★★

動画サイトを見てダンスの練習をする8歳の頃。
しおり(まずはあいどるはダンス!
 ダンスができなきゃ話にならない!)

こてんと転ぶしおり。

★★★

カラオケボックスで、マイクを持って歌う10歳の頃。
しおり(そしてお歌!)

しおりの母は苦笑いで耳を抑えている。

★★★

洗面所でにーと歯を見せて笑顔の練習をする12歳の頃。

しおり(それと笑顔も大事!
 常に可愛い笑顔を心掛けなきゃ
 鏡は常に持っておこう)

★★★

自分の部屋で、スマホでアイドルのインタビュー動画を見る14歳の頃。
しおり「ふむふむ
 目立つには何か個性的な趣味も必要ね」

勉強机にどんと何冊かの本を積み重ねるしおり。
本のタイトルには神話や魔獣図鑑などの情報が書いてある。
しおり「ちょうど興味あったし!
 これが趣味なアイドルなんてさすがにいないよね!」

しおりは、来る日も来る日もアイドルになるための訓練をしていく。

★★★

学校の教室。

しおり(よし! できた!)

自分の席に着いて履歴書を見てニンマリとする17歳の頃のしおり。
履歴書には『アイドルオーディション』と大きく書かれていた。

しおり(あとはこれを事務所に送れば……!)

女1「でさ~!」
女2と談笑していた女1。
気が付かずに席に座っていたしおりにぶつかる。

しおり「あ……」
ぶつかった拍子に履歴書を落とす。

女1「あ、ごめん! しおり」

手を合わせて謝る女1。

しおり「ううん。大丈夫」
しおりは笑みを浮かべて、書類を拾おうとするが、女2がその書類を素早く取る。

女2「え? なにこれ?」

女2は女1にその履歴書を見せる。
女1と女2はキャハハと笑った。

女1「え〜? なにこれ〜?
 しおり、マジぃ?」

女2「いやいや、冗談っしょ
 こんなのうちの街じゃ受かるわけないじゃん!
 遊びでしょ?」

しおり「――――ッ!」

傷付いたような表情を見せるしおり。
だけど女1と女2には気付かれないように

しおり「あはは〜……だよね〜」

と頭の後ろに手を回し、すぐに苦笑いを浮かべる。

しおり「ごめんね…
 これお母さんが勝手に書いちゃったの
 全く迷惑だよね!
 学校の鞄にまで入れちゃうなんてさぁ!
 今からこれ突き付けて文句言いに行くから返して
 …………ね?」

奪うように履歴書を女1と女2から取る。
しおり「じゃ、また明日!」
女1・女2「あ、ねぇ! しおり!」

しおりは教室から逃げるように去ってしまう。

★★★

しおり「はぁ……はぁ……」

夕方となり川の土手を泣きながら走るしおり。
手にはぐしゃぐしゃにした履歴書が握られている。

しおり「あぁぁぁぁああ」
走りながら持っていた履歴書をビリビリに破る。

しおり「わかってる。わかってるよ!
 ダンスも歌もいつまで経っても上達しないし!
 笑顔も下手だし、趣味も微妙だし!
 そもそも大して可愛くもないし!」
髪をぐちゃぐちゃに振り回す。

しおり「そんな私が合格できっこないって……そんなのわかってるよ!」
そこで足を挫き、土手を転ぶ。

しおり「あ……」

全力で走っていたことも相まってそのまま川へ――――。

――――
――

三途の川近くの林道でボロボロと泣くしおり。
しおり「だってもう死んじゃったんだよ?」

しおりは腕で顔を覆う。
しおり「あんなに頑張ったのに……
 もう、大変だったのに……!」

しおり「死なせなくていいじゃん……
 挑戦すらさせてくれないってこと?
 そんなのあんまりじゃん……!」

モノローグ「神様はひどい
 努力しても才能がある人にしか
 挑戦しても運が良い人にしか
 振り向いてくれない
 才能がなくて運が悪い私みたいな人には
 容赦がない」

涙を拭い、しおりは後ろを振り向くと、
モノローグ「だから」
侍と大蛇が戦っている場所に引き返すように戻る。

しおり「神様に文句のひとつでも言わないと
 気が済まないよ!!」


大蛇「シャアアアアアア!」

大蛇は、侍を喰らおうと口を開けて地面に突っ込む。
侍は避ける。
その隙にバズーカを打ち付ける。
大蛇は爆発に怯まず、侍に攻撃する。
侍は刀で攻撃を防ぎつつ、大蛇の攻撃を利用し飛ぶ。
銃を構えて大蛇に連射。
鱗に当たるが効いている様子はない。

侍「やはり効かぬか」

大蛇「シャア!」

大蛇が吠えて侍に飛び掛かる。
侍は錆び付いた刀を捨て、別の刀を取り出すと大蛇の胴体を足場にして斬りながら走り下る。

大蛇「シャアアアアアア!」
悲鳴を上げる大蛇。

刀は崩れる。
追い打ちをかけるように銃を胴体に向けて撃とうとするが、

侍「チッ! こんな時に!」

銃が撃てない。
侍「じゃむったか! ――!?」

銃に気を取られている間に大蛇は侍を捕まえる。
侍の下半身が大蛇に潰され侍は痛みで悲鳴を上げる。

侍「くそ! 離さんか!」

だが、侍は大蛇と目を合わせてしまった。
侍「!?」(しま――ッ!)

抵抗しようとするが、
侍(身体が動かぬ……)

大蛇が大きく口を開ける。

侍(あぁ……とうとう喰われるか
 敵を討つこともままならず
 すまぬ、しおり……
 すまぬ……)

妻の笑顔を思い出す侍。

侍(もし……)
侍の目から一筋の涙が零れ落ちる。

侍「もし願いが……叶うなら
 今ひとたび妻に会いとう……」

大蛇はそんな侍を喰うために大きく口を開けた。
だがその瞬間、大蛇の顔が爆発した
大蛇は悲鳴を上げて侍を解放する。

侍「!」

しおり「な、なんだ……
 ム、ムラさんだって未練たらたらじゃない……」

侍「しおり……なぜおぬしが」

手榴弾を構えたしおりが立っていた。
侍はしおりを見て目を丸くする。

しおり「た……助けに来た……!」


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