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三途の侍、蛇を撃つ 3話【創作大賞2024 漫画原作部門】

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三途の川のほとりで、しおりは手榴弾を持ちながらガクガクと足を震わせ顔が青ざめていた。

しおり「わ、私も一緒に戦う」

侍「危険だ! 喰われるぞ」

しおり「でも……」

大蛇「シャアアアアアア!」

しおり「キャッ!」

しおりを襲う大蛇。
間一髪で、しおりは大蛇を避ける。

しおり「私が囮になるから!
 ムラさんはその隙に!」

侍「ま、待て!」
(くそ! 動けん!
 蛇の毒が効いている!)

大蛇に襲われるしおりを見つつ、侍は動こうと必死に藻掻く。
しおりは必死に逃げる。

しおり「これでも体力には自信があるんだから!」

しおりは必死にアイドルの練習をした日々を回想する。

しおり「使ったことないけど……!」

手榴弾のピンを抜き、後ろに投げる。
頭の後ろに手をやって身体を丸め爆発に備える。
大蛇が悲鳴を上げるが、ダメージはそんなにない様子でしおりを追いかける。

しおり「全然効かないじゃん!」

侍(動け! 動け! 動け!)

しおりの様子を見ながら、侍は必死に歯を食いしばる。

侍(もう二度と目の前で喰われてたまるか!
 仏よ! いるなら応えよ!
 少しでいいから!)

大蛇が地面を抉るようにしおりがいた場所に飛び込む。
小石が飛び散り、

しおり「ッ!」

その一部がしおりの身体に当たり痛みで躓く。
ポケットから手鏡が飛び出る。

侍「しおり!」

侍は漸く動けるようになり、大蛇に向かって走る。
転んだしおりを見て大蛇が笑みを浮かべる。

しおり(あぁ……やっぱりダメだったか
 でも仕方ないかな
 挑戦して無理だったんだ……
 あ……ムラさんがこっちに来てる
 ごめんね、ムラさん…やっぱ無理だったみたい
 でも――)

しおり「やっぱり死にたくなかったな……」

ボロボロと涙を出すしおり。
しおりの側で落ちた手鏡が光る。

その瞬間しおりの脳裏に蘇る記憶。
※※※
勉強机でしおりはニヤニヤとしながら図鑑を読む。
しおり「ふーん……この蛇って目を合わせると――」
※※※

しおり「!! そうか!」

しおりは急いで手鏡を取ろうと飛び込んだ。
動いたしおりを追いかけるように大蛇は吠えてしおりを襲う。
大蛇「シャァァアアアア!!!!」

しおり「あなたの正体見たり!」

目を瞑り、手鏡を大蛇に向けるしおり。
大蛇はその鏡で自分の姿を見てしまい、石のように硬くなり、動けなくなる。

しおり「ムラさん! 今だ!」

侍「まったくしおりにはいつも驚かされる!」

侍は大蛇の後ろに飛び上がり、石になった大蛇の首にバズーカを構える。

侍「蛇よ。今まで世話になった」


しおり「死んだ……?」

侍「既に死んでいる」

大蛇の身体が砕け、かすかに光が散っている。
それを見ながらしおりと侍は話す。

しおり「……じゃあ倒したの?」

侍「あぁ、倒した
 それにしても鏡を向けると固まるとはな」

しおり「あの蛇、バジリスクって名前なの」

侍「?」

しおり「西洋の想像上の生き物
 全身が毒で目を直接見ると死んじゃうんだ
 だけど、鏡が弱点
 自分を見ると、自分と目が合うから固まっちゃうの」

侍「…まさにあの蛇と同じじゃないか!」

しおり「うん……」
(まさか中学に読んだ図鑑が
 ここで役に立つとは…)

しおり「本来なら目が合うと死んじゃうけど
 たぶん私達はもう死んでるから
 石のように動けなくなるみたい…」

侍は大蛇を立って見る。
侍「そうか……」

侍「しおりよ」
しおりの方を振り向き土下座する。
侍は涙を流している。

しおり「!!」

侍「感謝する!
 心から……感謝する!」

しおり「ちょ……ちょっと! やめてよ!」

侍「千年だ!
 千年経ちようやく妻の敵を討てた
 しおりのおかげだ
 この恩義。輪廻を超えても忘れることはない」

しおり「いや……その……」

戸惑うしおり。
やがて考えるように下を向くと、しおりは侍を見た。

しおり「私もだよ」

侍「?」

しおり「ムラさんのおかげで私も思い出せたんだ。
 私が諦めが悪い人間だって。
 だから私、もう一度アイドル目指してみる。
 生まれ変わっても。何度でも」

しおりは最大級の笑顔を見せる。

しおり「だからありがとう。ムラさん」

その笑顔に侍は驚き、少し黙り下を向く。
耳が少々赤くなっている。

侍「そうか」

すると、侍の手が光の粒のようになり上がる。

侍「む……」

しおり「どうしたの?」

侍「どうやら時間のようだ」

侍は立ち上がる。

侍「拙者の役目は終わりのようだ。
 一足先にあの世へ導かれる」

しおり「そんな……」

侍は清々しい表情になっている。

侍「しおりよ
 これから幾度となく
 困難が待ち受けるだろう」

しおり「……」

侍「危険な目に合うやもしれん
 大きな挫折に苛まれるやもしれん
 それでもしおりが
 何人なんびとになろうと
 どんな生き物になろうと
 拙者が側で護ろう
 どんな姿でもどんな形でも」

しおりの目からは涙が出てくる。

侍「だから案ずるな
 しおりの来世は明るい」

しおり「うん……うん……!
 ムラさん!」

しおりは侍に抱き着く。
侍は口を真一文字にして驚く。

しおり「ありがとう……本当に」

その言葉を聞いて侍は笑みを浮かべる。

侍「来世で会おう」

しおう「うん! また来世で!」

そうして侍は光の粒になり消えていく。
光は川の向こう岸に続いていた。


テレビが並ぶ電気屋の前で黒髪のポニーテールをした女と黒猫が出会う。

黒猫「にゃああ」
女「あ、猫ちゃん!」

女が黒猫を撫でる。
黒猫は気持ち良さそうにゴロゴロと鳴く。

白猫「にゃん」

白猫が寄ってくる。

女「あぁ。夫婦でしたか……こりゃ失礼」

撫でるのを止めて、立ち上がり、

女「またね」

笑みを浮かべて立ち去る。
黒猫と白猫は尻尾を絡ませて反対の方向へ。
電気屋のテレビには
『期待の新星アイドル現る!』
という文字と共に、黒髪のポニーテールをした女性が映っていた。

(了)

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