7thコードのリフレイン#13

休みの日に僕の携帯が鳴った。
僕はどうしてもすぐに出て欲しい時は
7コール鳴らすようにしている。
鳴らして折り返しを待つ時は3コール。
7コール鳴ったので出てみた。
彼女は少し興奮している感じで
「できた!できたよ!一曲できたの!」
「ほんと?よかったね!」
と返すと
「聴きたくないの?」ときた。
そりゃ聴きたいに決まってる。
「それは愚問だろう。」と、返すと
「はっきり言ってよー!遠回しなの嫌だ。」
ときたので
「聴きたいです。」と答えた。
「じゃあいますぐきて!」の直後
電話は切られて代わりに
住所が載ったメールが届いた。
ナビで調べると僕の家から約4時間
だった。
最寄駅も載ってたので
電車で行こうか迷ったが
僕は車で下道で彼女の家を目指した。
見慣れない景色。
移ろっていく景色が見たかったからだ。
お互いに田舎と分類される地域に住んでいたようで、峠みたいなところを通ったり、
見たことのないチェーン店が並ぶ道や
ガソリンスタンドもコンビニもない道が
続いたりした。
そして住宅街の一角の中に
彼女の住むアパートはあった。
もう日は沈みかけていた。もうそろそろ
着く頃、西陽が眩しかった。
ピンポンと鳴らす。
開くドアに、いつもと違う様子のひかるが
いた。 パジャマのような格好をしていた。
おでこには冷やすためのシールが
貼ってある。
「どうした?風邪か?」と咄嗟に尋ねた。
「そうみたい。でも。」と言いかけた。
「でも?なに?」と聞くと
「曲作りで悩み過ぎた知恵熱かも。」
と彼女はにこやかな笑顔で言った。
「玄関じゃなんだし、呼んだの私だし、
上がらない?」
「あ、ごめん。お邪魔します。」
玄関の戸を閉めて、施錠する。
靴を脱ぎ揃えて確認する。
「あのこのままあがっていいの?」
「あ、ごめん。スリッパとか使いたい?私のしかなくて。そのままでも全然いいよ!」
と言われたので借りるのも失礼かと思い
そのまま上がることにした。
一言で言うなら
あまり生活感のない部屋だった。
だけど僕好みの部屋でもあった。
シンプルな家具が並んでいた。
白いソファー、黒を基調としたガラステーブル、薄いピンクのカーテン。
リビングはそんな感じだった。
もちろん、テレビだったりそういうものも
あったが。普段から見ないのかコンセント
から抜かれているようだった。
生活感がないと言ったが、整理整頓が
きちんとなされていた。とも言える。
「なにぼーっとしてるの?適当に座りなよー。」と声をかけられハッとした。
立ちつくしていたようだ。
「そこのソファーでもいいかな?」
「うん、いいよ。」
「で、音源はできたの?」
と、ここまできた理由の大きな一つに
触れた。
「それが、ここまで呼んでおいてなんなんだけど、できてないの。」
「そうか、初めてだしね。」
「だからギターで今サビを弾いてもいいかな?」
その言葉はぼくにとっては願ったり叶ったりだった。彼女のギターを歌声を聴いてみたかった。歌声はハミング程度にしか聴いた記憶がない。無論、ギターもまともには聴いたことがなかった。
お願いしますと気がつけば返事をしていた。

〜泣きながら泣きながら眠れぬ夜をいくつも越えてそして今日もきっと明日もひとりきりでずっと歩いてる〜

「サビはこんな感じ。」

切ない歌詞でメロウバラードだった。
胸が苦しくなった。
どんな言葉でこの歌を聴いた感想を
形容したらいいか、伝えたいのに
うまく言葉にできない。

「やっぱりだめかな?変かな?」

「いや、すごくいい。僕は好きだ。」
とストレートに伝えた。

「あ、ありがとう。聴いてくれて。」

「こちらこそ、
聴かせてくれてありがとう。」

「曲名思いつかないんだよね。」
と彼女が言うので

「〔泣きながら〕でいいんじゃない?」
と即答すると
「ちひろがいうならそれにする!」
と即答だった。

まだ全貌を顕にしたわけではない
その曲は僕の頭の中で
降りしきる雨のようにリフレインしていた。

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