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私に青春への憧れを植え付けた『か「」く「」し「」ご「」と「』という作品

人生を変えた一冊、と言うには大げさかもしれないが、私の価値観に大きな影響を与えた一冊がある。

それが中学生の時に読んだ、住野よる先生の『か「」く「」し「」ご「」と「』だった。


この作品は全5章で構成されており、それぞれ語り手が違う。
地味でシャイな、男勝りで快活なミッキー、予測不能でミステリアスなパラ、気さくな好青年ヅカ、内気で控えめなエルの5人である。

5人のキャラクターにはそれぞれ「かくしごと」があり、そんな彼らの交流が物語の主軸となっている。


この物語の魅力は、タイトルにもある「かくしごと」と、それに振り回される少年少女たちの姿にある。

というのも、彼らの「かくしごと」は、いずれも他者の気持ちの一部を垣間見れる特殊能力なのである。

例えば第一章の主人公は、人の頭の上に句読点(「、」「。」)や感嘆符(「!」)、疑問符(「?」)が見え、それをもとに大まかな人の気持ちを読み取ることができる。

しかし一方で欠点も存在する。いずれの能力も気持ちの一端が分かるだけで、その気持ちが生じている要因や具体的に考えていることは一切分からない


この能力の不完全さが生み出す、キャラクターたちの気持ちの変化や言動が非常に面白い。

例えば先ほどの京のストーリーでは、彼がエルに不用意な発言をしてしまうのだが、能力で彼女を傷付けてしまったことに気づく。しかし自分に自信のない彼は彼女の気持ちを深読みしてしまったことで、状況をかえって悪くしてしまう羽目になる。(詳細はネタバレになるので気になる方は読んでみてほしい。)

「人の気持ちが分かればいいのに」と当時はよく考えていた私だったが、この物語を読んでいると、「人の心って複雑で、こんなに知るのが難しいものなんだ」と、とても新鮮な気持ちになったことを覚えている。

そして、だからこそ、各章の最後でキャラクター同士が誤解を解き、本音で話し合うシーンにはある種の尊さが感じられ、大いに心を揺さぶられた。

この読書体験が、「人と心を通わせることって、なんて素晴らしいのだろう。こんな高校生活を送ってみたい」という気持ちを生み出した。

本作には文化祭や修学旅行、皆でお花見といったThe・青春みたいなシチュエーションが多いのも相まって、読了後には自分の中で神格化された理想の青春像が作られていったのである。


その理想像を抱えたまま高校へ入学したところ、進学校の洗礼を受け、青春ラブコメの沼にはまっていったのだが…それはまた別のお話。

それはともかく、『か「」く「」し「」ご「」と「』がくれた、複雑な人間関係の先にある(かもしれない)光への憧れは、大学生となった今も消えていない。(我ながら理想主義者だなぁとは思うが)

社会人になっても、あの5人のような、お互いにリスペクトできる人間関係を築いていきたいものだ。

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