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東京と、懐かしく思う風景と

   (目安:約1420文字)

地元を何年か離れていた頃
東京駅に近づく新幹線の中で

「懐かしい」

という感覚になって驚いたことがある

故郷を懐かしく思うとはこういう事なのかと
初めて知った感覚だった

東海道新幹線のぞみ
名古屋駅から乗ってきた
そこだって街だし都会なのに
見慣れた景色って本当に懐かしく思うものなんだ
と驚いた
東京なんて、しょっちゅう街の様子が変わるくせに
それでも、見慣れてたんだ

生まれも育ちも新宿だ
修学旅行に行っていた5日間で
小さな雑居ビルがひとつなくなってて
変化の激しいところだと思っていた


テレビで習ったのは
自然、畑、林、川、山、海、広い空……
緑色や青い色をした
そういうものが懐かしい日本の風景だった

そして、たぶん
テレビに映し出されたこのような景色に
「ナツカシイ」
という気持ちがおこるようになっていた
刷り込まれた感覚ではあったけど

でも実際は
東京発ののぞみに乗って
名古屋に戻っていくときの車窓から
懐かしいという感覚はおこらなくて
途中で通過する緑色の多い景色にも懐かしさはなくて
名古屋駅のツインタワーが見えるころには
また頑張ろう、と覚悟を新たにしていた


自分にとっての故郷は
あの懐かしく思う風景の中にあって
それは嫌だな、と思うこともあった

なんでかというと
東京は冷たいとか汚いとか怖いとか
そしてそんな人が多くて騙される、とか
そういう印象を聞くことが多かったから

でもテレビで習ったような
自然の多い風景を見た人が懐かしいと思うように
自分自身もまた
あのビル群の航空写真とか見上げたビル街の写真とか
そういうもので懐かしさを感じるのも確かで
東京が自分にとっての故郷なんだと思い知らされる

東京の人っぽくない。見えない。新宿出身なんて意外。
名古屋で生活を始めた頃、よく言われた言葉だ
どういう人が「っぽい」んだろうか
東京のネガティブなイメージが耳に入るにつれて
そんなんじゃないと思うのにな
なんてチリチリしたのは、果たして郷土愛なのか

同じ地元の人が集まることも
その土地ならではの言葉があるというわけでもない自分が
郷土愛みたいなものを感じたのにも驚いた


現代のような比較的新しい高層ビルが西新宿に立ち並ぶ前
ラジオ体操の公開収録に行った建設予定だった更地も
魚屋や八百屋が並ぶ商店街の背景に
住友ビルとか三井ビルとかがそびえたっていたアンバランスな景色も
手軽に写真に残せる時代でも歳でもなかったし
その時はそれが当たり前だったから
あえて写真を撮ろうとも思わなくて

だから写真はないんだけど
高層ビル建設予定のだだっ広い更地も
今はもうない小さな商店街も
その景色は記憶の中に鮮明にある

なんにせよ
人の数だけ懐かしい風景はある
自分にとってのそれは発展途上の新宿の姿であり
高層ビルが印象的な東京の風景だった

おなじように
七年過ごした名古屋の景色も今では愛着がある
第二の故郷みたいなもので
他の土地よりもずっと自分事に感じる
頑張った時期を支えてくれた大切な街だ

東京に帰ってきてから一度も訪れてないけど
きっと今なら名古屋駅に近づく新幹線の中で
車窓からの景色に懐かしさで気持ちが浮つくだろう

人の数だけ印象的な景色はちがう
願わくばそれぞれの景色がずっと残っていたらいいんだろうけど
それはたぶん難しいから
今あたりまえにある
あなたの心が安らぐ景色を
しっかりと心に留めておくといいんじゃないかな
と思う

目に見える形じゃなくても
残しておくことは、きっとできる


#ふるさとを語ろう #新宿 #懐かしい
#未来に残したい風景

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